ニュージーランドの移民政策が180度変わった理由——2023年以降の制度変更
コロナ後に移民を歓迎したNZが、2023年から一転して制限を強化。AEWV厳格化、最低賃金引き上げ、ビザ審査の変化を時系列で整理する。
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2022年、ニュージーランドは国境を再開するやいなや、記録的な数の移民を受け入れた。純移民数(入国者 − 出国者)は2023年に約13.7万人を記録し、人口520万人の国としては異常な数字だった。日本に換算すると、1年間で約350万人の純増に相当する。
そして2023年後半、政策は急転する。
2022年:「誰でもいいから来てくれ」
コロナ禍の2年間で国境を閉じたNZは、深刻な人手不足に陥っていた。介護施設のスタッフが足りない、レストランが営業できない、建設現場が回らない。2022年7月の国境全面開放と同時に、Accredited Employer Work Visa(AEWV)の発給が急拡大した。
AEWVの条件は当時かなり緩かった。雇用主がAccreditation(認定)を取得していれば、Median Wage(NZD 29.66/時)未満の職種でも最大3年のビザが出た。飲食・小売・農業など、いわゆるローワーペイドの職種に大量の移民労働者が流入した。
2023年後半:急ブレーキ
純移民数の急増は、住宅不足と家賃の高騰を加速させた。オークランドの賃貸空室率は1%台に落ち込み、一部地域では物件の内見に50人以上が並ぶ状態になった。医療機関のキャパシティ不足、学校の教室不足も顕在化した。
2023年10月に就任した新政権(National Party主導の連立政権)は、移民政策の引き締めに舵を切った。
主な変更点
AEWVの厳格化(2024年4月〜)
- Median Wage以上(NZD 31.61/時・約2,910円)の給与が必須に。これを下回る職種はビザ発給の対象外
- 最大ビザ期間を5年から3年に短縮
- 一部の低技能職種でスタンドダウン期間(NZ国外で一定期間過ごす義務)を導入
雇用主認定の厳格化
- Accreditationの審査基準を強化。移民労働者への研修義務、NZ人の雇用努力の証明が必要に
- 認定取り消し・停止のケースが増加
英語力要件の導入
- 2024年後半から、一部の職種で最低限の英語力(IELTS 4.0相当)を要求
- それまで英語力要件がなかった職種にも適用
数字で見る変化
| 指標 | 2023年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 純移民数 | 約13.7万人 | 約5万人(推計) |
| AEWV発給数(年間) | 約11万件 | 約5.5万件 |
| Median Wage | NZD 29.66/時 | NZD 31.61/時 |
1年で純移民数が半分以下に絞られた。政策変更の即効性が数字に表れている。
日本人への影響
日本人がNZで就労する場合、ほとんどはAEWVかワーキングホリデービザを利用する。AEWV のMedian Wage要件がNZD 31.61/時に引き上げられたことで、飲食店や小売店での就労ビザ取得は実質的に困難になった。
時給NZD 31.61は年収換算でNZD 65,750(約605万円)。日本の平均年収を超える水準だ。ITエンジニア、会計士、建設マネージャーなど専門職であればこの条件をクリアできるが、一般的なサービス業では難しい。
ワーキングホリデービザ(18〜30歳、最大23ヶ月)には賃金要件がないため、若い世代がNZを経験する手段としてはまだ有効だ。ただし、ワーホリから就労ビザへの切り替えにはMedian Wage要件が適用される。
振り子は次にどちらに振れるか
NZの移民政策は歴史的に振り子のように動いてきた。人手不足になると門戸を開き、住宅やインフラが追いつかなくなると閉じる。2024〜2025年の引き締めで人手不足が再び深刻化すれば、また緩和の方向に動く可能性はある。
移住を計画している人にとって重要なのは、「今の制度が5年後も同じとは限らない」ということだ。制度が緩い時期に入国し、スキルと実績を積んで永住権を取る——このタイミングの読みが、NZ移住の成否を分けることがある。
政策の方向性を予測するのは難しいが、NZが「スキルの高い移民は歓迎、低賃金労働力の大量流入は制限」という基本方針に向かっていることは、ここ数年の変更から読み取れる。