世界で最も孤立した先進国に住むということ|地理的孤立とメンタルヘルス
ニュージーランドから最も近い先進国オーストラリアまで飛行機で3時間。東京まで11時間。この地理的孤立は在住者の精神に何をもたらすのか。
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東京からオークランドまでの直行便は約11時間。しかし直行便の本数は限られ、多くの場合シドニーやシンガポールで乗り継ぐ。片道20時間近くかかることもある。
「ちょっと帰国」ができない距離。これがニュージーランドに住む日本人の精神に、じわじわと効いてくる。
物理的な距離の影響
ヨーロッパに住む日本人は、週末にロンドンからパリに行ける。シンガポール在住者はLCCで東京まで7時間だ。ニュージーランドにはそれがない。
隣国オーストラリアですら飛行機で3時間。南米は12時間以上。「気分転換に隣の国へ」という選択肢が極めて限られている。
航空券の価格も高い。ニュージーランド〜日本の往復は通常NZD1,500〜3,000(約13万8,000〜27万6,000円)。年に何度も帰国できる金額ではない。
「小さな池」の窮屈さ
ニュージーランドの人口は約520万人。東京都の半分以下だ。日本人コミュニティはさらに小さく、在留邦人は約2万人。
人間関係が限られたサークル内で完結しやすい。日本人コミュニティに入れば情報は得やすいが、関係が濃くなりすぎることもある。かといってコミュニティの外に出ると、孤立感が深まるリスクがある。
オークランドやウェリントンなら一定の都市的な多様性があるが、地方都市では「自分以外にアジア人がいない」環境も珍しくない。
ニュージーランド人の孤立への適応
ニュージーランド人自身は、この孤立をどう受け止めているのか。多くのキウイ(ニュージーランド人の愛称)にとって、若い頃に「OE(Overseas Experience)」として1〜2年海外に出ることが通過儀礼だ。ロンドンが最も人気のある行き先で、ロンドンのニュージーランド人コミュニティは大きい。
OEを経験した後にニュージーランドに戻ってくる人は、「世界を見た上で、ここを選んだ」という意識がある。孤立を受け入れた上での帰還だ。
しかし全員が戻るわけではない。若年層の海外流出は社会問題になっており、オーストラリアへの移住者は年間数万人規模だ。
メンタルヘルスのリソース
ニュージーランドのメンタルヘルスの数字は決して楽観的ではない。若者の自殺率はOECD諸国の中で高い水準にある。
在住者がメンタルヘルスのサポートを受けたい場合、以下のリソースがある。
- GP(家庭医): メンタルヘルスの問題もまずGPに相談する。GPからカウンセラーや心療内科への紹介状を書いてもらう
- 1737: 24時間対応のメンタルヘルス電話・テキスト相談。英語のみだが、深刻な状態の場合は利用を
- EAP(Employee Assistance Programme): 雇用主が提供する無料カウンセリング。多くの企業が契約している
日本語でのカウンセリングはオークランドに数名の日本人カウンセラーがいるが、選択肢は限られる。オンラインで日本のカウンセラーにつながるサービスを利用する人もいる。
孤立と引き換えに得るもの
しかし、この孤立があるからこそ手に入るものもある。満天の星空。人のいない海岸。週末に国立公園でトランピング(ハイキング)をして、誰にもすれ違わない贅沢。
「世界から離れている」ことは、ストレスにもなれば安らぎにもなる。どちらに転ぶかは、孤立を選択として受け入れられるかどうかにかかっている。