キウイフルーツはニュージーランドのものではなかった|果実が国家ブランドになるまで
キウイフルーツの原産地は中国。ニュージーランドが品種改良とブランディングで世界市場を席巻するまでの過程は、小国の知財戦略の教科書だ。
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キウイフルーツの原産地はニュージーランドではない。中国だ。
20世紀初頭、ニュージーランドの教師イザベル・フレイザーが中国から持ち帰った種子が、ニュージーランドの土壌で育ち、品種改良を経て、半世紀後に「キウイフルーツ」として世界に輸出されることになる。
他国の果物を自国の象徴にした。これはブランディングの話であり、知財戦略の話であり、小国が世界市場で戦う方法の話だ。
名前を変えて世界に売った
もともと「チャイニーズ・グーズベリー(Chinese gooseberry)」と呼ばれていたこの果物は、1959年にニュージーランドの輸出業者によって「キウイフルーツ」に改名された。
理由は2つある。ひとつは、冷戦下で「Chinese」という名前が北米市場で敬遠されたこと。もうひとつは、ニュージーランドの国鳥「キウイ」にちなんで、国のアイデンティティと結びつけるマーケティング戦略。
茶色くて毛羽立った外見がキウイ鳥に似ている、という後付けの理由が採用された。名前を変えるだけで商品のイメージが一変する——マーケティングの教科書に載るレベルの事例だ。
Zespriという独占構造
ニュージーランドのキウイフルーツ産業の中心にいるのがZespri(ゼスプリ)。約2,600のニュージーランドの生産者が出資する協同組合型企業で、ニュージーランド産キウイフルーツの輸出をほぼ独占している。
この独占は法律に基づいている。1999年のKiwifruit Industry Restructuring Actにより、Zespriがニュージーランド産キウイフルーツの海外販売に関する独占的な権利を持つ。
独占と聞くと否定的に聞こえるが、この構造にはメリットがある。個々の農家がバラバラに海外市場と交渉するより、1つの主体が品質管理、ブランディング、価格交渉を行う方が、小国の農産物輸出には適している。
ゴールドキウイの品種改良
1990年代にZespriが開発した「SunGold(ゴールドキウイ)」は、甘さと酸味のバランスが改善され、世界的に大ヒットした。緑のキウイより平均単価が高く、輸出収益を押し上げた。
このSunGoldの品種は、植物特許で保護されている。2021年には、ニュージーランドのキウイ農家が無断でSunGoldの苗木を中国に持ち出した事件が発覚し、Zespriは中国の無許可栽培に対して法的措置を取った。
中国から来た果物が、ニュージーランドで品種改良され、ニュージーランドが中国での無断栽培を訴える。歴史の皮肉が詰まっている。
数字で見る規模
2024年のニュージーランドのキウイフルーツ輸出額は約NZD$35億(約3,220億円)。輸出先のトップはEU、日本、中国。
日本はキウイフルーツの輸入量で世界トップクラス。スーパーで見かけるZespriのキウイは、ニュージーランドの農業戦略の結晶だ。
ベイ・オブ・プレンティ地方(テ・プケ周辺)がキウイフルーツの主産地で、収穫シーズン(3〜6月)にはワーキングホリデーの労働者が多数集まる。日本人ワーホリにとっても、キウイフルーツのパッキングは定番の仕事のひとつ。
在住者が見るキウイの別の顔
ニュージーランドのスーパーでキウイフルーツを買うと、意外に高い。NZD$3〜$5/kg(約276〜460円/kg)程度。輸出品質のものが国内市場にも流通するため、他の果物と比べて割高感がある。
「自国の名前がついた果物が、自国で安くない」——この矛盾にも、輸出主導経済の構造が見えている。