キウイフルーツは中国原産——ニュージーランドが「国の果物」を横取りした経緯
キウイフルーツの原産地は中国の揚子江流域です。ニュージーランドがこの果物を「自国ブランド」として世界に売り出した100年の歴史と、現在のZespri独占体制を辿ります。
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「キウイフルーツ」はニュージーランドの果物ではありません。原産地は中国の揚子江(長江)流域で、もともとは「ヤンタオ(陽桃)」や「ミホウタオ(獼猴桃)」と呼ばれていました。
1904年にニュージーランドの教師メアリー・イザベル・フレーザーが中国から種を持ち帰ったのが、すべての始まりです。
名前のロンダリング
中国から持ち込まれたこの果物は、最初「チャイニーズ・グーズベリー」と呼ばれていました。しかし1950年代、冷戦の真っただ中で「チャイニーズ」という名前は商業的に不利だと判断されます。
1959年、ニュージーランドの輸出業者ターナーズ&グロワーズが、この果物を「キウイフルーツ」と改名しました。ニュージーランドの国鳥「キウイ」にちなんだ命名です。茶色い毛に覆われた外見がキウイバードに似ているから——というのが公式の理由ですが、マーケティングの天才的な判断でした。
中国の果物が、名前を変えただけでニュージーランドの代名詞になった。
Zespriの独占モデル
ニュージーランドのキウイフルーツ産業の中核にあるのが、Zespri International(ゼスプリ)です。ニュージーランド産キウイフルーツの輸出は法律(Kiwifruit Export Regulations 1999)でZespriの独占が認められています。
約2,800のキウイフルーツ農家がZespriの株主であり、生産者協同組合に近い構造です。2023/24年度のZespriの売上高は約46.6億NZD(約4,287億円)。ニュージーランドの農産物輸出としては乳製品に次ぐ規模です。
このシングルデスク(一元輸出)モデルは、農家同士が価格競争で疲弊することを防ぎ、ブランド管理とR&Dに集中投資できる仕組みです。
ゴールドキウイという発明
Zespriが世界市場で勝てた最大の要因は、2000年代に投入した「SunGold(ゴールドキウイ)」です。従来の緑色のヘイワード種より甘く、酸味が少なく、日本やアジア市場で爆発的に売れました。
このゴールドキウイ(品種名: G3)は、Zespriが20年以上かけて品種改良した知的財産です。品種の権利はZespriが厳格に管理しており、栽培ライセンスはニュージーランド国内とイタリア等の限定された提携先にのみ付与されています。
しかし2016年、中国でG3の苗木が不正に流出していることが発覚。Zespriは中国の農家に対して訴訟を起こしましたが、すでに数千ヘクタール規模で栽培されており、完全な回収は困難とされています。
皮肉なことに、ニュージーランドが中国から持ってきた果物の品種を、中国に「盗まれた」わけです。
ベイ・オブ・プレンティの「キウイ帝国」
キウイフルーツの栽培は北島のベイ・オブ・プレンティ地方に集中しています。テ・プケ(Te Puke)という町は「キウイフルーツの世界首都(Kiwifruit Capital of the World)」を名乗っています。
この地域の気候——温暖で日照時間が長く、適度な降水量——がキウイフルーツ栽培に最適です。農地の価格はキウイフルーツ栽培の収益性を反映して高騰しており、1ヘクタールあたり400,000〜800,000NZD(約3,680万〜7,360万円)に達することもあります(2024年時点、Real Estate Institute of NZ参考)。
在住日本人とキウイフルーツ
ニュージーランドのスーパーマーケットでは、キウイフルーツが年間を通じて手に入ります。旬は5〜10月で、この時期は価格も安い。グリーンが1kgあたり3〜5NZD(約276〜460円)、ゴールドが1kgあたり4〜7NZD(約368〜644円)程度。
日本のスーパーで「ゼスプリ ゴールドキウイ」を見かけたことがある人は多いはず。あの黄色い果物の故郷は、実は中国であり、ブランドの故郷がここニュージーランドです。
農産物の世界で「原産地」と「ブランドの所在地」が別の国であるケースは珍しくありませんが、キウイフルーツほど見事に「横取り」に成功した例は少ない。名前を変え、品種を改良し、輸出を独占する——この100年の戦略を知ると、スーパーで手に取るキウイの見え方が変わります。