マオリ文化の日常——ハカ・タトゥー・テ・レオ・マオリ語が生きる社会
ニュージーランドのマオリ文化は観光用の演目だけではない。ハカ、タ・モコ(タトゥー)、テ・レオ・マオリ語が日常に根付く社会の実態を在住者の視点で解説。
NZに着いてまず気づくのは、国名の看板がほぼ必ず2言語で書かれていることだ。英語の下に、テ・レオ・マオリ語が並んでいる。バスの行き先表示、政府の公式書類、テレビのニュース——あらゆる場面に現れる。観光用のデモンストレーションではなく、現役の言語として社会に組み込まれている。
テ・レオ・マオリ語の現在
テ・レオ・マオリ語(Te Reo Māori)は1987年以降、英語と並ぶNZの公用語に指定されている。2018年の国勢調査では、人口の約4%にあたる18万5,000人がマオリ語を話せると回答した。
学校ではマオリ語イマージョン教育(カウランガ)が選択できる国も存在し、NZでは政府主導でマオリ語教育が強化されている。テレビ局「Whakaata Māori(マオリテレビ)」もあり、日常的にマオリ語コンテンツが放送されている。
日常会話では「Kia ora(キアオラ)」= こんにちは、が広く使われる。メールの書き出しや職場での挨拶でも普通に登場するので、NZに住むなら覚えておくといい。
ハカ——威嚇ではなく歓迎と敬意の表現
「ハカ」と聞くと、ラグビーのオールブラックスが試合前に行うパフォーマンスを思い浮かべる人が多い。あれは「カ・マテ」というハカの一種で、戦いへの気合い入れとして知られる。
しかし実際のハカは幅広い。葬儀(タンギ)で故人を悼むために行われるものもあれば、来賓を迎えるウェルカムセレモニーで披露されるものもある。NZの公式行事ではハカが頻繁に行われ、在住者はいずれ目にする機会がある。
学校の入学式や卒業式でもハカが披露されることがある。日本人が初めて目にすると圧倒される迫力があるが、「威嚇」ではなく「力強い表現と連帯」が本来の意味だ。
タ・モコ(タトゥー)——顔に刻む系譜
タ・モコはマオリの伝統的なタトゥーで、顔や体に施される渦巻き状の文様が特徴だ。一般的なタトゥーとは意味が根本的に異なり、その人の系譜・地位・精神的な物語を表現する。
現代のNZでも、マオリ系の政治家・芸術家・スポーツ選手がタ・モコを入れているケースがある。非マオリ人が安易に同じデザインを真似することは文化的流用として問題視されるため、在住者はその背景を理解しておく必要がある。
日常の中のマオリ文化
地名の多くはマオリ語に由来する。オークランドの正式名称は「Tāmaki Makaurau(タマキ・マカウラウ)」、ウェリントンは「Te Whanganui-a-Tara(テ・ファンガヌイ・ア・タラ)」だ。日常的に使われる地名を追うだけで、マオリの世界観が見えてくる。
スーパーや図書館の壁にマオリのアート(コーウァイウァ)が描かれている光景も珍しくない。外来文化が先住民文化を完全に上書きした国と、対話しながら共存しようとしている国——NZは明らかに後者を選んでいる。その姿勢は法律や行政の中にも現れており、「Treaty of Waitangi(ワイタンギ条約)」の精神が今も社会の基盤として機能し続けている。