Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
文化

マオリの土地はなぜ売れないのか|ニュージーランドの土地所有権と先住民の権利

ニュージーランドの土地の約6%はマオリの土地(Maori freehold land)として特別な法的地位にある。売買が制限され、相続が複雑化する仕組みの背景と、現在の課題を探る。

2026-05-27
ニュージーランドマオリ土地法律先住民

この記事の日本円換算は、1NZD≒92円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(NZD)の金額を基準にしてください。

ニュージーランドの国土面積約2,680万ヘクタールのうち、約150万ヘクタールが「Maori freehold land」として分類されている。この土地は通常の不動産市場で売買できない。売却するにはMaori Land Court(マオリ土地裁判所)の許可が必要で、許可が下りることは稀だ。

なぜこんな仕組みが存在するのか。答えは19世紀の収奪の歴史にある。

ワイタンギ条約と土地の喪失

1840年のワイタンギ条約で、マオリはイギリスに主権を譲り渡す代わりに、土地・森林・漁場の所有権(tino rangatiratanga)を保証された。少なくとも、マオリ語版の条約ではそう書いてある。

しかし英語版と当時のマオリ語版では解釈が異なり、イギリス植民地政府はこの曖昧さを利用して大規模な土地購入・没収を進めた。1860年代の土地戦争(New Zealand Wars)を経て、マオリは国土の約95%を失った。

Native Land Courtの功罪

1862年に設立されたNative Land Court(現在のMaori Land Court)は、マオリの共有地を個人名義に分割する役割を担った。共有地を個人所有に変換することで、植民者が土地を「合法的に」購入できるようにする仕組みだった。

この過程で、部族(iwi)の共有地が細分化され、多数の個人に分配された。時間が経つにつれて相続が繰り返され、1つの土地に数百人から数千人の共有者が存在するケースが生まれた。

「2,000人の地主」問題

現在、一部のMaori freehold landでは、1ヘクタールの土地に数百〜数千人の共有者(owners)がいる。土地を使おうとすると、全共有者の合意が必要になるケースがある。実務的にはほぼ不可能だ。

この「所有者の断片化(fragmentation)」が、マオリの土地の経済的活用を阻んでいる。農業に使えない、住宅を建てられない、銀行がローンの担保として認めない。「土地を持っているのに使えない」という矛盾が、マオリコミュニティの経済的不利の一因になっている。

Te Ture Whenua Maori Act 1993

現行のマオリ土地法(Te Ture Whenua Maori Act 1993)は、マオリの土地をマオリの手に残すことを基本原則としている。土地の売却は原則として認めず、長期リース(最大99年)による活用を推奨している。

2023年時点で、政府はこの法律の改正を検討中だ。土地の活用を促進しつつ、マオリの所有権を維持するバランスが論点になっている。

ワイタンギ審判所の和解

1975年に設立されたワイタンギ審判所(Waitangi Tribunal)は、条約違反に関するマオリの申し立てを審査する機関だ。過去数十年で多くの和解(Treaty Settlement)が成立し、土地の返還や金銭賠償が行われてきた。

しかし、失われた土地の全てが返還されるわけではない。和解金の総額は数十億NZDに達するが、失われた土地の価値と比べれば一部にすぎない。

在住者として知っておくべきこと

日常生活で直接関わることは少ないが、ニュージーランドの不動産を購入する際に「Maori freehold land」の隣接地や、Treaty Settlement対象地域の物件に出会うことはある。

ニュージーランドの土地の歴史を知ることは、この国のニュースや政治を理解する上で不可欠だ。マオリと土地の問題は、2020年代の今も進行中の政治課題であり続けている。

コメント

読み込み中...