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パウア(アワビ)の密漁が懲役5年になる国|ニュージーランドの水産資源管理

ニュージーランドのパウア(アワビ)は1人1日10個まで、殻長12.5cm以上のみ採取可。違反すればNZD100,000の罰金や懲役も。世界で最も厳しい水産資源管理の仕組みを解説。

2026-05-24
ニュージーランドパウアアワビ漁業資源管理

この記事の日本円換算は、1NZD≒92円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(NZD)の金額を基準にしてください。

ニュージーランドの海岸でパウア(pāua、アワビの一種)を採る。素潜りで岩の裏側に張り付いたパウアを剥がし、バケツに入れる。誰でもできるシンプルな行為だが、この国では法律で極めて厳密に管理されている。

1人1日あたりの採取上限は10個。殻の最小サイズは12.5cm(地域によって異なる)。スキューバダイビング機材の使用は禁止。違反した場合、最大NZD100,000(約920万円)の罰金または最大5年の懲役刑が科される。

アワビ10個のために懲役5年。この厳しさに、ニュージーランドの資源管理哲学が凝縮されている。

QMS——漁獲割当制度

ニュージーランドの水産資源管理の中核はQMS(Quota Management System)だ。1986年に導入された世界初の包括的な個別漁獲割当制度で、約100種の水産資源に対して年間の総漁獲可能量(Total Allowable Catch: TAC)を設定し、これを漁業者に個別の漁獲割当(Individual Transferable Quota: ITQ)として配分する。

パウアのTACは地域ごとに設定されており、科学的な資源評価に基づいて毎年見直される。資源量が減少すればTACが引き下げられ、回復すれば引き上げられる。

この制度は市場原理と資源保護を組み合わせた設計で、漁獲割当の売買・リースが可能。効率的な漁業者に資源が集中し、非効率な乱獲が抑制される——という理屈だ。

密漁の実態

厳格な規制があるからこそ、密漁の経済的インセンティブも高い。パウアの市場価格は1kgあたりNZD70〜100(約6,440〜9,200円)。アジア市場(特に中国・香港)では乾燥パウアがさらに高値で取引される。

MPI(Ministry for Primary Industries)の取締部門は、海岸線のパトロール、密漁船の摘発、輸出貨物の検査を行っている。2023年にはオークランドで大規模なパウア密漁ネットワークが摘発され、NZD240万相当のパウアが押収された。

在住者が海岸でパウアを採る場合も、MPIの監視対象だ。サイズ測定用のゲージを持参し、採取数を正確に管理する必要がある。「知らなかった」は通用しない。

レクリエーション漁業のルール

パウア以外にも、ニュージーランドのレクリエーション漁業(recreational fishing)には詳細な規制がある。

  • クレイフィッシュ(ロブスター): 1人1日6匹まで。最小サイズあり(雄54mm尾幅、雌60mm尾幅、地域により異なる)
  • スナッパー(鯛): 1人1日7匹まで(オークランド・ハウラキ湾周辺)。最小サイズ30cm
  • ブルーコッド: 1人1日10匹まで。最小サイズ33cm

すべての魚種にバッグリミット(持ち帰り上限)とサイズ制限がある。釣りをする場合は、MPIのウェブサイトまたはNZ Fishingアプリで地域ごとの規制を必ず確認すること。

マオリの慣習的漁業権

ニュージーランドの水産資源管理には、マオリの慣習的漁業権(customary fishing rights)が組み込まれている。ワイタンギ条約に基づき、マオリのiwi(部族)には特定の海域でのカイモアナ(海の食べ物)の採取権が認められている。

この権利は個人的な使用(マラエでの儀式や家族の食事など)に限定され、商業利用には別途の漁獲割当が必要。マオリの漁業権は法律と文化の交差点にある制度であり、ニュージーランドの先住民族政策の一部でもある。

食べる前に知っておくべきこと

在住者としてニュージーランドの海の幸を楽しむなら、このルール体系を理解しておくことが前提になる。日本の潮干狩り感覚でパウアを大量に持ち帰れば、前科がつく可能性がある。

ただ、このルールは「食べるな」と言っているのではなく、「持続可能な量だけ取れ」と言っているだけだ。10個のパウアを合法的に採って、家でバター焼きにする。それで十分に贅沢な食事になる。

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