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Predator Free 2050——外来種を根絶するNZの野心的な環境政策

ニュージーランドは2050年までに外来の捕食動物を国土から完全に排除する計画を進めている。ポッサム・ストート・ラットの3種を対象にした前例のない国家プロジェクトの内側。

2026-05-05
Predator Free外来種環境保全キーウィニュージーランド

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NZには哺乳類の捕食者がもともと存在しなかった。コウモリを除けば、陸生哺乳類はゼロだった。飛べない鳥が地上を歩き回り、夜行性の昆虫が森の中で繁栄していた。人間が到来するまでの数千万年間、NZの生態系は「捕食者がいない」という前提で進化してきた。

その前提が壊れたのは約800年前。ポリネシア人がネズミ(キオレ)を持ち込み、ヨーロッパ人がポッサム、ストート(オコジョ)、ラットを導入した。結果、NZの固有種は壊滅的な打撃を受けた。

毎年2,500万羽が殺されている

現在、外来の捕食動物によって毎年推定2,500万羽のNZの在来鳥が殺されているとされる(Predator Free 2050 Limited公式)。国鳥キーウィの個体数は約7万羽まで減少し、毎年約2%が失われている。何もしなければ、数十年以内にキーウィは野生では絶滅する。

外来哺乳類の数は驚異的だ。ポッサムだけで推定約3,000万匹がNZ全土に生息している。人口の約6倍だ。

Predator Free 2050とは

2016年に当時のジョン・キー首相が発表した国家目標。2050年までにポッサム、ストート、ラットの3種をNZ本土から完全に排除するという計画だ。

「完全排除」という目標は前例がない。離島での外来種排除は成功例があるが(NZのキャンベル島でネズミを排除した事例は世界最大規模)、国土全体(約27万km2)から哺乳類を根絶するのは別次元の挑戦だ。

方法と課題

現在使われている主な方法は以下の通り。

1080毒餌: NZで最も広く使われている手法。フッ化ナトリウム酢酸(通称1080)を含む餌を空中散布する。効果は高いが、論争も大きい。毒餌が犬に与える影響、水源への影響、非対象種への被害について反対運動がある。

トラッピング: 罠を設置して捕獲する。市民ボランティアが庭先や公園にトラップを置く活動が全国的に広がっている。Predator Free NZのウェブサイトでは、自宅の庭に設置するトラップの購入・設置ガイドが公開されている。

新技術の開発: 遺伝子ドライブ(特定の遺伝子を集団に広げてメスだけを生まれなくする技術)の研究が進んでいるが、倫理的・生態学的な懸念が大きく、実用化のめどは立っていない。

市民の関わり方

NZのPredator Free運動が特徴的なのは、市民参加の規模だ。全国に数百のコミュニティグループがあり、自分の住む地域のトラッピングに参加している。ウェリントンのPredator Free Wellingtonは都市部での成功例として知られ、市内のキーウィ再導入が実現している。

在住者として参加する方法は簡単だ。地元のPredator Freeグループに連絡してボランティア登録するか、自宅にトラップを設置する。トラップは$20〜80(約1,840〜7,360円)程度で購入できる。

実現可能なのか

正直に言って、2050年までの完全排除は多くの専門家が懐疑的だ。現在の技術と資金では、本土全体からの根絶は極めて困難とされている。特にラットは繁殖力が高く、都市部での排除は難しい。

しかし、この目標自体が国民の意識を変え、保全活動への参加を促し、技術開発を加速させている側面がある。「達成できるかどうか」より「この目標を掲げたことで何が変わったか」に価値があるという見方もできる。

NZに住んでいると、夜の散歩中にポッサムと目が合うことがある。かわいい顔をしているが、NZの生態系にとっては脅威だ。この矛盾を抱えながら、国全体で外来種と向き合っている。

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