ラグビーユニオンとリーグ——同じ楕円球が映すニュージーランドの階層構造
ニュージーランドではラグビーユニオンが国技だが、ラグビーリーグも根強い人気を持つ。2つのラグビーの棲み分けには、民族・階級・地域の力学が深く絡んでいる。
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ニュージーランドの「国民的スポーツ」はラグビーユニオンだ。オールブラックスの試合がある日、バーやリビングルームに人が集まり、ハカのビデオがSNSで拡散される。登録選手数は約15万人。人口比では世界最高水準だ。
しかし、もう一つのラグビー——ラグビーリーグ——の登録選手数も約3万人いる。キウイ(Kiwis)という愛称の代表チームがあり、NRL(オーストラリアのプロリーグ)にはニュージーランド・ウォリアーズが参戦している。
同じ楕円球を使う2つのスポーツが、なぜ同じ国に共存しているのか。
分裂の歴史
ラグビーユニオンとリーグの分裂は1895年のイングランドに遡る。労働者階級の選手が試合出場による賃金補填(broken-time payments)を要求し、上流階級が支配するRFU(ラグビーフットボールユニオン)がこれを拒否。離脱したクラブが「ノーザン・ラグビー・フットボール・ユニオン」を結成し、後にラグビーリーグとなった。
つまり、分裂の起源は「階級」だ。ユニオンは上流・中産階級のアマチュアスポーツ、リーグは労働者階級のプロスポーツ——この構図がニュージーランドにも持ち込まれた。
ニュージーランドでの階層化
ニュージーランドでは、この階級的棲み分けが民族的な軸とも重なっている。
ラグビーリーグの選手とファンには、ポリネシア系(マオリ、サモア、トンガ)の比率が高い。特にオークランド南部のマンゲレ、オタラ、パパトエトエといったポリネシア系コミュニティが集中する地域は、リーグの強固な基盤だ。
一方、ユニオンは全国的な広がりを持ち、パケハ(ヨーロッパ系)のファンベースが相対的に厚い。ただし、ユニオンにもマオリやポリネシア系の選手は多く、オールブラックスのロスターはニュージーランドの多民族性を反映している。
リーグが「階級のスポーツ」であるという構造は、単純な白黒では語れないが、地域ごとのファンベースの分布を見ると、経済的に恵まれていないコミュニティほどリーグを支持する傾向がある。
ルールの違いと競技文化
ラグビーユニオンは15人制、リーグは13人制。リーグにはラック・モールがなく、タックル後にボールを足で後方に転がす「プレイ・ザ・ボール」でプレーを再開する。6タックルで攻撃権が交替する。
リーグの方がルールがシンプルで、ボールが動くプレーが多い。「見て面白い」のはリーグだと言うファンもいる。ユニオンのスクラムやラインアウトは戦略的で複雑だが、試合のテンポが遅くなりがちだ。
NRLとオールブラックスの人材争奪
両コードの間では、常に選手の争奪が起きている。ニュージーランドの有望な若手アスリートは、ユニオン(オールブラックス → ヨーロッパのプロクラブ)とリーグ(NRL → 高額契約)のどちらに進むかを選択しなければならない。
NRLのトップ選手の年俸はNZD700,000〜1,500,000(約6,440万〜1億3,800万円)。ニュージーランドラグビー(ユニオン)のスーパーラグビー選手の平均年俸はNZD150,000〜300,000(約1,380万〜2,760万円)。この給与差が、特に経済的なモチベーションが高い選手をリーグに引き寄せる。
在住者の視点
ニュージーランドに住む日本人にとって、ラグビーの話題は社交ツールとして有効だ。ただし「ラグビー」と言ったとき、相手がユニオンとリーグのどちらを指しているかを確認した方がいい。
オークランドのバーでは、ウォリアーズ(リーグ)の試合も大画面で中継されている。オールブラックスだけがニュージーランドのラグビーだと思っていると、会話の半分を見逃すことになる。
同じ楕円球を追いかける2つのスポーツの間に引かれた線は、この国の階層と多様性の地図でもある。