地震で壊れた町がクジラと復活する|カイコウラの観光と地質学
2016年のカイコウラ地震で町は孤立し、主力のホエールウォッチング産業は壊滅した。しかしカイコウラは復活した。この町を支えるのは、地下2,000mから湧き上がる栄養豊富な海水だ。
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2016年11月14日午前0時2分、M7.8の地震がカイコウラを襲った。国道1号線は崩落し、鉄道は寸断され、町は陸路で完全に孤立した。ヘリコプターでしかアクセスできない状態が数日間続いた。
人口約2,000人の小さな町にとって、これは存亡の危機だった。カイコウラの経済の約80%は観光業、その中核がホエールウォッチングだったからだ。
なぜカイコウラにクジラがいるのか
カイコウラの海底には、大陸棚がわずか1kmの沖で急激に深さ2,000m以上の海底峡谷に落ち込む地形がある。この峡谷(Kaikōura Canyon)に深層から冷たく栄養豊富な海水が湧き上がり、プランクトンが大量発生する。
プランクトン→イカ→マッコウクジラ、という食物連鎖が、陸からわずか数kmの距離で完結する。世界でも稀な地形だ。
マッコウクジラは通年で見られる。加えて、6〜8月にはザトウクジラの回遊、12〜3月にはシャチやイルカの大群が現れる。
マオリとクジラの歴史
「Kaikōura」はマオリ語で「kōura(イセエビ)を食べる(kai)」の意味。マオリの伝説では、半神マウイが巨大な魚(北島)を釣り上げたとき、カヌー(南島)の船底にイセエビが挟まっていた場所がカイコウラだとされる。
マオリのNgāi Tahu族は、ホエールウォッチング事業(Whale Watch Kaikōura)の主要株主だ。1987年に設立されたこの会社は、マオリ所有の観光事業として世界的に知られている。年間約10万人がツアーに参加し、年間売上は推定NZD20,000,000(約18億4,000万円)以上。
地震からの復活
2016年の地震後、国道1号線の復旧には2年以上かかった。その間、カイコウラは一時的にゴーストタウンのようになった。
しかし、道路が復旧すると観光客は戻ってきた。クジラがいる限り、人は来る。2024年にはコロナ前の水準に近い観光客数を記録している。
地震は海底地形にも影響を与えた。一部の海底が隆起し、海岸線が最大6m内陸に後退した場所がある。しかし海底峡谷の基本構造は変わらず、クジラの生態系への影響は限定的だった。
観光のリアル
ホエールウォッチングツアーは約3時間半。料金はNZD170〜195/人(約1万5,640〜1万7,940円)。クジラに遭遇できなかった場合は80%返金される。遭遇率は約95%と高い。
船酔い対策は必須。カイコウラの海は外洋に面しており、波が高いことが多い。酔い止め薬を乗船前に飲んでおくことを強く推奨する。
カイコウラはクライストチャーチから車で約2時間半。日帰りも可能だが、町にはイセエビ(crayfish)の有名なスタンドがあるので、1泊して海鮮を楽しむのがおすすめだ。路上のカウンターでイセエビ半身がNZD40〜60(約3,680〜5,520円)で食べられる。
脆弱さと強さ
カイコウラは自然に依存した町だ。クジラがいなくなれば町も衰退する。地震が来れば道が寸断される。この脆弱さの上に、2,000人の生活が成り立っている。
しかし、自然に依存しているからこそ、自然環境の保全に対するインセンティブが強い。Whale Watch Kaikōuraは環境保護活動にも力を入れており、クジラの研究データの収集にも貢献している。
地震の記憶を抱えたまま、クジラと共に生きる。カイコウラは、ニュージーランドの自然と人間の関係の縮図だ。