SG・TH・MY・VN・ID、外国人が不動産を買える国と買えない国——5カ国の規制比較
東南アジア5カ国の外国人不動産所有規制を比較。「買える・買えない」の二択ではなく、土地所有の可否・外国人枠・最低購入価格・転売制限など複雑な実態を整理する。
東南アジアで不動産を買いたい日本人が最初にぶつかるのが、「そもそも外国人は買えるのか」という問題。答えは「国による」——しかもその中身は「買える/買えない」の二択ではなく、「買えるけど土地は持てない」「コンドは買えるが枠がある」「名義上は買えるが転売に制限がある」といった複雑な条件がある。
5カ国の規制を並べてみる。
一覧表——外国人の不動産所有規制
| 項目 | シンガポール(SG) | タイ(TH) | マレーシア(MY) | ベトナム(VN) | インドネシア(ID) |
|---|---|---|---|---|---|
| コンドミニアム購入 | 可(ABSD 60%) | 可(外国人枠49%以内) | 可(RM100万以上) | 可(外国人枠30%以内) | 使用権のみ |
| 土地付き住宅(戸建て) | 原則不可 | 不可 | 可(RM100万以上) | 不可 | 使用権のみ |
| 土地の所有 | 原則不可 | 不可 | 可(制限あり) | 不可 | 不可 |
| 追加税/印紙税 | ABSD 60% | なし | なし | なし | なし |
| 最低購入価格 | なし | なし | RM 1,000,000 | なし | なし |
| 所有形態 | Freehold/Leasehold | Freehold(コンドのみ) | Freehold/Leasehold | 50年Leasehold(延長可) | Hak Pakai(使用権、80年) |
| 転売制限 | なし | なし | なし | あり(条件付き) | あり |
※2025年時点の情報に基づく。各国の規制は改定される可能性がある。最新情報は各国の関連省庁・公式サイトで確認を。
以下、国ごとに詳しく見ていく。
シンガポール——買えるが、ABSD 60%の壁
シンガポールは外国人でもコンドミニアム(非制限物件)を購入できる。土地付き住宅(Landed Property)は原則として市民・PR限定。
最大の障壁はABSD(Additional Buyer's Stamp Duty)。外国人の購入時税率は60%(2023年4月改定後の税率。最新情報はIRASで確認を)。
SGD 2,000,000のコンドを買う場合:
- BSD(通常の印紙税): 約SGD 64,600
- ABSD: SGD 1,200,000(物件価格の60%)
- 印紙税だけで約SGD 1,264,600(約1.57億円)
物件価格と合わせると、SGD 2,000,000のコンドの実質取得コストはSGD 3,264,600(約4.05億円)。投資としてABSD分を回収するには相当な値上がりが必要になる。
シンガポールPR(永住権)を持っていればABSDは5%(1戸目の場合)まで下がる。投資目的でシンガポール不動産を検討するなら、PR取得後が現実的。
タイ——コンドは買えるが、土地は持てない
タイは外国人に対して土地の所有を認めていない。これはタイの土地法(Land Code)で明確に定められている。
外国人が購入できるもの:
- コンドミニアムのFreehold(完全所有権)。ただし、1棟のコンドミニアムで外国人が所有できるのは全体の49%まで
- 残り51%はタイ国籍者が所有する必要がある
外国人が購入できないもの:
- 土地(いかなる形態でも外国人名義での所有は不可)
- 戸建て住宅(建物は所有できるが、土地は所有できない。リースホールドで土地を借りる形式は可能で、最長30年+更新)
外国人枠49%は人気物件では早い段階で埋まることがある。購入を検討する場合、デベロッパーや不動産エージェントに外国人枠の残りを確認する必要がある。
なお、タイ人配偶者名義で土地を購入するケースもあるが、離婚時の権利関係が複雑になるリスクがある。
マレーシア——最低購入価格RM 1,000,000の制限
マレーシアは外国人に比較的開かれた不動産市場を持っている。コンドミニアムだけでなく、土地付き戸建て住宅も購入可能。
ただし**外国人の最低購入価格がRM 1,000,000(約3,900万円)**に設定されている。これは州によって異なり、ペナンやジョホールではRM 2,000,000に引き上げられているケースもある。
外国人が購入できるもの:
- コンドミニアム(RM 1,000,000以上)
- 戸建て住宅(RM 1,000,000以上)
- 土地(一部。ただしマレー保留地・ブミプトラ枠は不可)
購入できないもの:
- RM 1,000,000未満の物件
- マレー保留地(Malay Reserved Land)
- ブミプトラ枠の物件(デベロッパーが一定割合をブミプトラ向けに確保している)
- 州政府が外国人購入を制限している特定カテゴリの物件
※2025年時点の情報に基づく。最低購入価格は州ごとに異なり、頻繁に改定される。最新情報は各州政府のサイトで確認を。
マレーシアはFreehold(永久所有権)の物件もあり、外国人でも永久に所有できる。これはタイやベトナムにはないメリット。
ベトナム——買えるが、50年のリースホールド
ベトナムは2015年の住宅法改正で外国人のコンドミニアム購入が可能になった。ただし条件がいくつかある。
外国人が購入できるもの:
- コンドミニアム(1棟あたり外国人所有は30%まで)
- 戸建て住宅(プロジェクト全体の10%まで)
所有期間:
- 50年のリースホールド(延長1回で最大50年、合計100年まで可能)
- ベトナム人配偶者がいる場合はFreehold(永久所有権)
転売の制限:
- 外国人から外国人への転売は可能だが、外国人枠(30%/10%)の範囲内
- 枠が埋まっている物件は外国人への転売ができない
- サブリース(第三者への賃貸)は可能だが、当局への届出が必要
注意すべきは、外国人が直接土地を所有することはできない点。コンドミニアムは建物部分の所有権であり、土地は共有持分としてリースホールドで保有する形式。
また、不動産取引の透明性やデューデリジェンスの環境は、シンガポールやマレーシアと比べると発展途上の部分がある。信頼できる現地弁護士を通すことが推奨される。
インドネシア——外国人は「所有」ではなく「使用権」
インドネシアは外国人に対して最も制限が厳しい国の一つ。
土地の所有形態(インドネシアの土地法):
- Hak Milik(所有権): インドネシア国籍者のみ
- Hak Guna Bangunan(建設使用権): 法人のみ(外国人個人は不可)
- Hak Pakai(使用権): 外国人個人が取得可能。最長30年+更新2回(合計80年)
外国人がバリ島やジャカルタでヴィラやアパートメントを「買う」場合、実態はHak Pakai(使用権)の取得。所有権(Hak Milik)ではない。
外国人がHak Pakaiで取得できるもの:
- コンドミニアム・アパートメント
- 一戸建て住宅(ただし使用権。土地の所有権は持てない)
- 最低購入価格の規制あり(ジャカルタ: IDR 5,000,000,000=約4,900万円、バリ: IDR 2,000,000,000=約1,960万円。地域によって異なる)
ノミニー(名義貸し)の問題: 外国人がインドネシア人名義(ノミニー)で不動産を購入するケースがあるが、これは法的リスクが高い。名義人が所有権を主張した場合、外国人側に法的な救済手段がないケースが多い。インドネシアの裁判所はノミニー契約を外国人有利に認定しない傾向がある。
5カ国比較——日本人投資家にとっての実務的な整理
| 観点 | 最もハードルが低い | 最もハードルが高い |
|---|---|---|
| 購入手続き | MY(明確なルール) | ID(使用権のみ) |
| 税コスト | TH/MY/VN(追加印紙税なし) | SG(ABSD 60%) |
| 所有期間 | MY(Freehold可) | VN(50年Leasehold) |
| 土地の所有 | MY(一部可) | TH/VN/ID(不可) |
| 流動性 | SG(市場が成熟) | VN/ID(外国人枠の制約) |
「買える」と「買うべきか」は別の問題
5カ国の規制を比較すると、マレーシアが外国人に最もフレンドリーに見える。Freeholdで土地も持てて、追加印紙税もない。ただし最低購入価格RM 1,000,000の制限があり、安い物件は買えない。
タイはコンドのFreehold購入が可能で追加税もないが、土地は持てない。戸建てを持ちたい場合はリースホールドしか選択肢がない。
シンガポールは制度として購入可能だが、ABSD 60%が事実上の「外国人は買うな」メッセージになっている。
ベトナムは50年リースホールドで、Freeholdではない点に注意。インドネシアは使用権のみで、所有権は取得できない。
「買えるかどうか」を確認した次に必要なのは、「その国の不動産を持つことが自分の資産設計に合っているか」の判断。規制だけでなく、賃貸利回り・為替リスク・流動性・税制・出口戦略を総合的に検討した上で、現地の弁護士と不動産エージェントに相談するのが確実な進め方になる。