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税務・法務

海外移住前に知っておくべき出国税——対象者・計算方法・合法的な対策

国外転出時課税制度(出国税)の対象者・課税タイミング・NISA口座との関係・合法的な対策を整理。1億円の判定基準と納税猶予制度を正確に解説。

2026-04-06
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「出国税は1億円以上の資産を持つ人だけの話でしょ?」——この理解は、半分正しくて半分間違っています。

国外転出時課税制度(通称「出国税」)は、2015年7月1日に施行された制度です(所得税法第60条の2〜第60条の4)。対象者の範囲、課税の仕組み、そしてNISAとの関係は、見落としやすいポイントがいくつかあります。

対象者の2つの条件

出国税が適用されるのは、以下の両方を満たす人です(国税庁「No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」)。

  1. 対象資産の合計額が1億円以上
  2. 出国日前10年間のうち、5年超を日本に居住している

条件2は見落とされがちです。海外勤務が長く、過去10年のうち日本の居住期間が5年以下であれば、たとえ1億円以上の有価証券を持っていても対象外になります。

「1億円」の判定——何が含まれるか

対象資産は以下のとおりです。

  • 有価証券: 株式(上場・非上場)、投資信託、ETF、社債等
  • 匿名組合契約の出資の持分
  • 未決済の信用取引・発行日取引
  • 未決済のデリバティブ取引: 先物・オプション等

ここで注意すべき点があります。

NISA口座の資産も含まれる

NISA口座内の株式・投資信託も、1億円の判定に含まれます。NISAは「運用益が非課税」であって、出国税の対象資産から除外されるわけではありません。

2024年から始まった新NISAの生涯投資枠は1,800万円。NISA単体で1億円に届くことは通常ありませんが、特定口座やiDeCoの資産と合わせて1億円を超えるケースは十分にあり得ます。

不動産・預金・暗号資産は対象外

不動産、銀行預金、暗号資産(仮想通貨)は対象資産に含まれません。「資産1億円」ではなく「有価証券等1億円」が正確な基準です。

時価で判定される

1億円の判定は取得価額ではなく出国時の時価で行います。購入時3,000万円だった株式が値上がりして1億円を超えていれば対象になります。

何に対して課税されるのか

出国税は、対象資産の含み益に対して課税されます。実際に売却していなくても、出国時点で「売却したもの」とみなして譲渡所得を計算します。

例えば、取得価額5,000万円の株式が出国時に1億2,000万円の時価であれば、含み益7,000万円に対して所得税15.315%(復興特別所得税を含む)が課税されます。税額は約1,072万円。

実際に利益を得ていないのに課税されるため、「売ってもいないのに税金を払うのか」という反発は当然ありますが、制度上はそうなっています。

納税猶予制度——払えない場合の選択肢

含み益に対する課税なので、現金が手元にない場合があります。このために「納税猶予制度」が用意されています。

要件

  • 出国前に「納税管理人の届出」を税務署に提出する
  • 担保を提供する(対象となる有価証券自体を担保にすることも可能)
  • 確定申告を期限内に行う

猶予期間

原則5年。届出により10年まで延長可能。

猶予中に帰国した場合

猶予期間中に日本に帰国し、引き続き対象資産を保有している場合、出国税の課税は取り消しになります。つまり、一時的な海外赴任で戻ってくる予定がある場合、納税猶予を利用すれば実質的に課税されないことになります。

猶予中に売却した場合

海外で対象資産を売却した場合、売却時の実際の譲渡所得に基づいて再計算されます。出国時より値下がりしていれば、税額が減る(またはゼロになる)可能性があります。

合法的な対策——移住タイミングの設計

出国税の対策は「脱税」ではなく「タイミングの設計」です。

対象資産を1億円未満にする

出国前に一部の有価証券を売却し、対象資産の時価合計を1億円未満に調整する方法。ただし、売却時に通常の譲渡所得税(20.315%)が発生するため、出国税との比較で有利かどうかを計算する必要があります。

含み損のある銘柄を保有しておく

含み益のある銘柄と含み損のある銘柄がある場合、出国税は銘柄ごとではなく全体の含み益に対して課税されます。含み損がある銘柄を保有しておくことで、課税対象額を圧縮できます。

納税管理人を選任して猶予を利用する

帰国予定がある場合は、納税猶予を活用するのが最もシンプルな対策です。5年〜10年以内に帰国すれば課税取り消し。

出国前に十分な期間を確保する

出国税の確定申告は、出国年の翌年3月15日まで(納税管理人を選任している場合)。準備期間を考慮して、年の前半に出国するほうが対応しやすくなります。

専門家への相談は必須

出国税は、資産の種類・金額・出国先の国の税制・日本との租税条約の有無によって結果が大きく変わります。特に、出国先の国で同じ資産に対して課税される場合の二重課税調整は複雑です。

国際税務に詳しい税理士への相談は、移住の1年以上前から始めるのが理想です。出国直前では対策の選択肢が狭まります。

出国税は「富裕層だけの問題」と思われがちですが、株式投資をしている会社員でも、長期の値上がりで1億円のラインを超えることは珍しくありません。海外移住を検討し始めた段階で、自分の対象資産の時価を一度確認しておく価値はあります。

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