言語の壁は感情の問題じゃなくて、お金の問題だ
英語ができない駐在員が現地で払うコスト——通訳費、日本語対応プレミアム、情報格差による損失——を年間ベースで試算。言語の壁は金額で見えるようになる。
海外に住むと「英語ができなくて困る」という話をよく聞く。困る、というのは感情の話だと思われがちだ。恥ずかしい、不安、もどかしい。でも実態はもっと即物的で、英語ができないと純粋にお金がかかる。
年間でいくら余計に払っているか、試算してみた。
1. 日本語対応サービスのプレミアム
海外で「日本語対応」がつくサービスには、ほぼ例外なく価格プレミアムが乗っている。
医療: シンガポールのローカルGP(一般医)の診察料はSGD 30〜60程度。日本語対応クリニックはSGD 80〜150が相場。差額を年4回の受診で計算すると、年間SGD 200〜360(約23,000〜41,000円)の追加コスト。
不動産: 日系不動産会社を通すと、物件の選択肢が「日系企業が契約実績のある物件」に絞られる。結果として家賃が相場より5〜10%高い物件を紹介されることがある。月額SGD 3,000の物件で5%プレミアムなら月SGD 150、年間SGD 1,800(約207,000円)。
美容室: ローカルのカットがSGD 20〜40のところ、日系サロンはSGD 60〜100。月1回通うとして年間SGD 480〜720(約55,000〜83,000円)の差。
会計・法務: 確定申告の代行をローカル会計事務所に頼むとSGD 200〜500。日系会計事務所はSGD 500〜1,500。年1回でもSGD 300〜1,000の差が出る。
※1SGD≒115円で計算(2026年4月時点)
これらを合計すると、日本語対応プレミアムだけで年間30万〜50万円程度の追加支出になる。
2. 通訳・翻訳コスト
会社が用意してくれる場合は別だが、個人で通訳を頼む場面は意外と多い。
- 賃貸契約時の通訳同行: 1回SGD 200〜400
- 病院での通訳(会社手配でない場合): 1回SGD 100〜300
- 行政手続き(EP更新、銀行口座開設など): 1回SGD 150〜300
年間3〜5回こうした場面があるとして、SGD 600〜2,000(約69,000〜230,000円)。
3. 情報格差による「見えない損失」
これが一番大きいのに、一番見えにくい。
保険の選択肢: 英語で比較検索ができれば、シンガポールのIntegrated Shield Planは5社以上から選べる。日本語の情報だけだと、日系代理店が扱う1〜2社のプランしか見えない。年間保険料の差は数万円になることもある。
投資商品: 英語の情報にアクセスできれば、CPF-ISの投資オプションやローカルのロボアドバイザー(Syfe、Endowusなど)を比較検討できる。日本語だけだと「よく分からないから放置」になりがちで、複利の機会損失が積み上がる。
交渉力: 家賃交渉、給与交渉、サービスへのクレーム——英語でスムーズにやり取りできるかどうかで結果が変わる。家賃交渉で月SGD 100浮けば年間SGD 1,200(約138,000円)。これができないのは実質的な損失だ。
情報格差による損失を年間10万〜30万円と見積もるのは控えめな数字だと思う。
合計: 年間50万〜100万円
| 項目 | 年間追加コスト(概算) |
|---|---|
| 日本語対応プレミアム | 30万〜50万円 |
| 通訳・翻訳 | 7万〜23万円 |
| 情報格差による損失 | 10万〜30万円 |
| 合計 | 約50万〜100万円 |
もちろん個人差は大きい。会社が手厚く日本語サポートを提供している場合はもっと少ないし、英語が全くできなくて現地語も必要な国(タイ、ベトナムなど)ならもっと多い。
5年で250万〜500万円
駐在の平均期間が3〜5年だとすると、5年間で250万〜500万円の追加コスト。英語学習への投資——オンライン英会話なら月1万〜2万円、年間12万〜24万円——と比べると、どちらが合理的かは明らかだ。
「英語ができないのは性格の問題」「コミュニケーション力の問題」と片付けられがちだけど、実際は家計の問題。月額のサブスクリプション費用みたいなもので、英語ができない期間ずっと課金され続ける。
言語の壁を「いつか勉強しよう」で先延ばしにするコストは、毎月の明細には載らないが、確実に財布から出ている。