海外在住者の緊急資金はいくら必要か——「3ヶ月分」では足りない場合
海外でのリストラ・急病・緊急帰国・ビザ拒否を想定した緊急資金の適切な金額と保持方法。国別の失業給付・社会保障の有無も考慮した現実的な計算。
「生活費の3ヶ月分を緊急資金として持て」——日本でよく言われる話だ。
でも海外在住者には、この基準では足りない可能性がある。
海外在住者特有のリスク
日本在住者と比べて、海外在住者が追加で直面するリスクは以下だ:
1. 失業したらビザが即問題になる 就労ビザは「その会社で働く」という前提で発行されている国が多い。会社都合で解雇された場合、ビザの有効期間が残っていても、猶予期間(シンガポールで60日、英国で60日等)を過ぎたら合法的な在留ができなくなる。
再就職先が見つかるまで現地にとどまるなら、就職活動期間(数ヶ月〜半年)を乗り切る費用が必要だ。
2. 失業給付がない or 少ない 日本の雇用保険は、海外勤務(現地採用)では対象外になることが多い。シンガポール・香港・UAE等は失業給付制度が存在しない。
タイ・マレーシアも外国人労働者が失業給付を受けるのは難しい。英国・ドイツ・オーストラリアは制度があるが、受給資格を満たすには一定期間の加入が必要で、赴任直後には使えない。
3. 緊急帰国コスト 家族の急病・死去等があれば、すぐ帰国する必要がある。緊急購入の往復航空券は15〜50万円規模になる。
4. 医療費 公的医療保険の範囲外の場合、入院・手術は高額になる。シンガポールで盲腸の手術をすれば、私立病院では100〜200万円規模になることがある。海外旅行保険・現地民間保険のカバレッジを確認し、カバーされない部分は自己資金で対応が必要だ。
5. ビザ更新拒否・国外退去 会社のビザスポンサーが取り消された場合や、ビザ更新が拒否された場合の帰国費用と、帰国後の生活再建費用(敷金・礼金・家財の再購入等)がかかる。
現実的な緊急資金の水準
上記リスクを踏まえると、海外在住者の緊急資金の目安はこうなる:
| リスク項目 | 想定費用 |
|---|---|
| 生活費(6ヶ月分) | 現地生活費×6 |
| 緊急帰国航空券(往復) | 15〜50万円 |
| 医療費自己負担分 | 50〜200万円(保険カバー外) |
| 帰国後の生活再建費用 | 50〜100万円 |
| ビザ変更・再申請費用 | 5〜30万円 |
合計すると、「生活費6ヶ月分 + 200〜400万円程度のバッファ」が目安になる。
日本在住時の3ヶ月分より、明らかに多い。
保持方法:流動性を確保する
緊急資金は「いざというとき即座に使える」ことが条件だ。
- 現地の銀行普通預金:ATM引き出し・振込が即時できるもの
- 日本の銀行口座(インターネット銀行):帰国後に即使えるもの
- Wise等の多通貨口座:国際送金コストを下げつつ手元に置く
緊急資金を株式や長期投資に混ぜてしまうと、「暴落時に仕事も失う」という最悪タイミングで資産が目減りする。緊急資金は元本保全・流動性優先で持つことが鉄則だ。
「多すぎる緊急資金」はない。海外在住中は、想定外の出来事の種類が国内の倍以上ある。