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家賃デポジットを返してもらえない国、返してくれる国——敷金文化の世界比較

日本・シンガポール・イギリス・フランス・タイ・韓国のデポジット制度を比較。敷金未返還トラブルの防止法、入居前写真の重要性、エスクロー制度のある国を解説。

2026-04-09
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「退去時に敷金が一銭も返ってこなかった」という話は、海外在住日本人の間でよく聞く。

逆に「あの国は日本より戻ってきやすかった」という話も聞く。国によってデポジットのルールも文化も大きく違う。

引っ越す前に知っておくと、少なくとも「知らなかった」による損は防げる。

日本の敷金——制度は明確だが現実は別

日本の民法では、敷金は「入居者の債務不履行の担保として預けるもの」で、退去時に損害がなければ全額返還が原則だ(民法622条の2)。

ただし「通常損耗は大家負担、故意・過失は入居者負担」という原則があるにもかかわらず、現実には原状回復費用として差し引かれるケースが多く、国土交通省がガイドラインを出して対応に当たっている。

目安:

  • 敷金:家賃の1〜2ヶ月分が一般的
  • 礼金:慣行として1〜2ヶ月分(返還なし・法的根拠も薄い)

礼金が存在するのは世界的に見ると独特な慣行だ。


各国のデポジット制度比較

シンガポール——2ヶ月が標準

シンガポールの賃貸では、1年未満の契約は1ヶ月分、1年以上の契約は2ヶ月分のデポジットが一般的。

法的には「デポジットは返す義務がある(入居者の損害がない限り)」というルールはあるが、独立した政府エスクロー制度は存在しない。個人の大家に直接預けるケースが多く、退去時のトラブルは少なくない。

対策として効果的なのが「Condition Report(入居前の状態確認書類)」の作成だ。引越し前に物件の状態を写真・動画で記録し、双方がサインすることが重要になる。エージェントを使う場合はInventory Listの作成を依頼するといい。

イギリス——5週間上限の法的制限

イギリスでは2019年の「Tenant Fees Act」により、住宅賃貸のデポジットに上限が設けられた。

  • 年間家賃£50,000未満の物件:5週間分の家賃が上限
  • 年間家賃£50,000以上:6週間分

さらに、イギリスには**政府認定の「Tenancy Deposit Scheme(TDS)」**が存在し、大家は受け取ったデポジットを30日以内に以下のいずれかに預けることが義務づけられている:

  • Deposit Protection Service(DPS)
  • MyDeposits
  • Tenancy Deposit Scheme(TDS)

入居者はどのスキームに預けられているか通知を受ける権利があり、大家が通知を怠った場合は罰則がある。退去時の紛争は各スキームが運営する「ADR(代替的紛争解決)」で仲裁できる。

「デポジットを守る法律がある国」として、ヨーロッパの中では比較的入居者保護が整っている。

フランス——1ヶ月分が法定上限

フランスの住宅賃貸は法律(Loi ALUR等)で厳しく規制されている。

  • 非家具付き物件:デポジットは家賃1ヶ月分が上限(法定)
  • 家具付き物件:2ヶ月分

退去から2ヶ月以内に返還義務がある(入居前との比較報告書=État des lieuxがある場合)。不当に返還しない場合は、家賃の10%/月分の遅延利息が発生する。

日本の「敷金+礼金」のような追加負担はなく、デポジットのみが基本。ただし「Cautionnerment(保証人)」や「garantie Visale(政府保証制度)」が別途求められるケースがある。

タイ——2ヶ月が一般的、返還は交渉次第

タイの賃貸は通常2ヶ月分のデポジット。日本・シンガポール・イギリスと比べると、法的な保護が弱い。

タイの民商法上、デポジットは返還されるべきものだが、実際には「エアコンが古くなった」「壁に日焼けがある」などの理由で全額差し引かれるトラブルがある。

対策:

  • 退去前に大家または管理会社と一緒に部屋をチェックする
  • 修繕が必要な箇所は退去前に合意する
  • 「全額返還」の合意書を書面でもらう

「口頭で大丈夫と言われたが書面がない」状態でもめるケースが多い。

韓国——チョンセという特殊制度

韓国には「チョンセ(전세)」という世界でもほぼ他に例を見ない制度がある。

家賃を月払いするのではなく、物件価格の50〜80%に相当する高額の保証金を一括で預け、退去時に全額返してもらうという仕組みだ。

  • 月額家賃:払わない(保証金の利息が大家の収入になる)
  • 保証金の規模:2〜3億ウォン(約2,000〜3,000万円)以上が一般的

高額の保証金をどこかに預けて利回りを得る大家と、「月払い家賃がない」入居者のマッチング。低金利の時代に成立した制度だが、近年の金利上昇で大家が保証金を返せないトラブルが急増した(2023年前後のチョンセ詐欺問題)。

日本人駐在員がチョンセを選ぶケースは少ないが、「なぜそんなに保証金が高いのか」と驚かないために知っておきたい制度だ。


デポジットを守るための実践的アドバイス

1. 入居前の写真・動画撮影は必須

これはどの国でも有効な自衛手段だ。

  • 壁・床・天井・家具の傷や汚れ
  • キッチン・浴室・トイレの状態
  • 窓・ドア・エアコン等の動作確認

タイムスタンプが入る形でスマートフォンで撮影し、クラウドに保存する。大家・管理会社に「入居前チェックリスト」へのサインを求める。

2. 破損・故障は即報告

入居中に設備が壊れた場合は、すぐにメールや書面で報告する。「報告していなかったから退去時に入居者負担になった」というケースを防ぐためだ。

3. 退去通知は書面で・期限を守る

契約書に定められた退去通知期間(1〜2ヶ月前が多い)を守り、書面またはメールで記録を残す。口頭での通知は後から「言った・言わない」になる。

4. エスクローまたは第三者保護があるか確認する

契約前に「デポジットはどこに保管されるか」を確認する。イギリスのTDS制度のような第三者保護があるかどうかで、トラブル時の対処可能性が変わる。


各国デポジット比較まとめ

デポジット上限第三者保護制度返還期限入居者保護度
日本慣行1〜2ヶ月なし慣行(法定明記なし)中程度
イギリス5週間(法定)あり(TDS等)10日以内が推奨高い
フランス1ヶ月(法定)なし2ヶ月以内(法定)高い
シンガポール慣行2ヶ月なし合意による中程度
タイ慣行2ヶ月なし合意による低め
韓国チョンセは物件の50〜80%一部あり退去時要確認

参考情報

  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」: mlit.go.jp
  • Deposit Protection Service(UK): depositprotection.com
  • Fair Trading(シンガポール住宅賃貸): cea.gov.sg

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