フリーランスで海外移住するなら、シンガポールとドバイで何が根本的に違うか
「どちらも税率が低い」で選ぶと失敗する。シンガポールとドバイのビザ構造・銀行口座・稼ぎ方の制限を職種別に整理し、自分の稼ぎ方に合う方を判断する材料を渡す。
「シンガポールは税金が安い」「ドバイは所得税ゼロ」。フリーランスが海外移住を検討するとき、この2つの都市はよく比較される。だが、税率だけで選ぶと構造的なミスマッチに気づくのが遅れる。
ビザ構造が根本的に違う
ドバイ: フリーランスビザが存在する
ドバイ(UAE)にはフリーランス専用のビザがある。フリーゾーン(DMCC、Dubai Media City、Dubai Internet City等)でフリーランスライセンスを取得し、そこに紐づく居住ビザを発行する仕組みだ。
費用はフリーゾーンにより異なるが、ライセンス+ビザで年間AED 8,500〜14,200(約37万〜61万円)程度(2025年時点)。2年更新で、更新費用はAED 8,500〜9,500。
フリーランスビザの保持者は、特定の雇用主に紐づかない。複数のクライアントと契約でき、UAE内外から収入を得られる。個人所得税はゼロ。
シンガポール: フリーランスビザが存在しない
シンガポールにはフリーランス向けの専用ビザがない。フリーランスとしてシンガポールに住むには、以下のいずれかのルートを取る必要がある。
| ビザ | 要件 | フリーランスとの相性 |
|---|---|---|
| Employment Pass(EP) | 最低月給SGD 5,600 + 雇用主が必要 | 雇用主が必要なので不向き |
| EntrePass | 起業家向け。事業計画書・資金証明が必要 | 法人設立が前提。個人事業は不可 |
| Overseas Networks & Expertise Pass(ONE Pass) | 月給SGD 30,000以上 or 著名な実績 | 高収入フリーランスなら可能 |
| Personalised Employment Pass(PEP) | 海外での固定月給SGD 22,500以上 | 元の雇用先の給与実績が必要 |
シンガポールでフリーランスをするには、実質的にはONE Pass(月給SGD 30,000=約372万円)を取るか、法人を設立してEntrePassを申請するか、どちらかになる。ハードルはドバイより圧倒的に高い。
銀行口座の開きやすさ
ドバイ: フリーランスビザ保持者は、Emirates ID(居住者ID)を取得すれば個人銀行口座を開設できる。ただし、フリーゾーンのライセンスだけでは法人口座を開くのが難しいケースがある。2025年の規制強化により、銀行のKYC(本人確認)が厳格化されており、口座開設に1〜3ヶ月かかることもある。
シンガポール: 法人を設立すれば法人口座は開設できるが、審査は厳しい。DBS、OCBC、UOBの3大銀行は非居住者のフリーランス個人に対して口座開設に慎重だ。EPやONE Passを持っていれば個人口座は比較的スムーズに開ける。
どちらも「行けばすぐ開ける」わけではない。ドバイの方が個人のフリーランスにとってはハードルが低い。
稼ぎ方の制限
ドバイのフリーゾーン制限: フリーゾーンで登録したフリーランスは、UAE国内のメインランド企業に直接サービスを提供することに制限がある。海外クライアントからの受注には制限がないが、UAE国内の顧客を直接開拓するには、メインランドのライセンスが別途必要になる場合がある(2025年の規制緩和で一部改善)。
つまり、「ドバイに住んで、日本や海外のクライアントにリモートで仕事する」パターンなら問題ない。「ドバイの現地企業を顧客にする」パターンでは追加手続きが必要。
シンガポールの制限: EPやONE Passを取得すれば、シンガポール国内外のクライアントに対して制限なくサービスを提供できる。法人を設立していれば、法人の事業範囲内で自由に営業できる。
法人税の比較
フリーランスでも年間売上が一定額を超えると、法人化のメリットが出てくる。
| 項目 | ドバイ(フリーゾーン) | シンガポール |
|---|---|---|
| 法人税率 | 0%(フリーゾーン内・条件あり)→ 9%(2023年導入のUAE法人税、課税所得AED 375,000超) | 17%(ただし初年度はSGD 100,000まで75%免除、次のSGD 100,000は50%免除) |
| 個人所得税 | 0% | 0〜22%(累進課税、SGD 320,000超で22%) |
| GST/VAT | 5%(VAT登録義務はAED 375,000超) | 9%(GST登録義務はSGD 1M超) |
ドバイの個人所得税ゼロは魅力的だが、2023年に導入されたUAE法人税(課税所得AED 375,000超で9%)により、「完全に無税」ではなくなった。
シンガポールは法人税17%だが、初年度の減免が大きく、スタートアップフェーズではSGD 100,000(約1,240万円)の利益まで実効税率4.25%で済む。
職種別の向き不向き
| 職種 | ドバイ向き | シンガポール向き |
|---|---|---|
| Webエンジニア・デザイナー(リモート) | ○(フリーランスビザ + 海外クライアント) | △(ビザのハードルが高い) |
| コンサルタント(海外クライアント中心) | ○ | △ |
| ライター・マーケター | ○(低コストで始められる) | × |
| 金融・投資関連 | △(規制が厳しい) | ○(金融ハブとしてのインフラ) |
| 法人営業(東南アジア市場) | ×(地理的に遠い) | ○(ハブ機能が強い) |
| スタートアップ創業者 | △ | ○(VCエコシステムが充実) |
結論: 「どっちが得か」ではなく「どっちが合うか」
年商3,000万円以下のリモートフリーランスなら、ドバイの方が始めやすい。フリーランスビザは年間40〜60万円で取得でき、個人所得税ゼロ、生活コストもエリアを選べば抑えられる。
年商5,000万円以上で、東南アジア市場にアクセスしたい、VCから資金調達したい、法人としてスケールしたいなら、シンガポールの方が構造的に合っている。ビザのハードルは高いが、一度法人を設立すればビジネスインフラは東南アジア随一だ。
「税率だけで比較する」のではなく、「自分の稼ぎ方・クライアントの所在地・事業のスケール計画」で選ぶ方が、移住後のミスマッチが少ない。