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フィリピンの「ブラウンアウト」——停電が日常になった国の暮らし方

フィリピンでは計画停電・突発停電が日常的に発生する。停電の原因、発電機・UPS・ソーラーパネルの対策事情、そして停電に慣れた社会の独特のリズム。

2026-05-14
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この記事の日本円換算は、1PHP≒2.7円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(PHP)の金額を基準にしてください。

フィリピンで停電のことを「ブラックアウト」とは言わない。「ブラウンアウト」(brownout)と呼ぶ。完全な暗闇ではなく、電圧が下がって照明が暗くなる状態を指す言葉だが、フィリピンでは完全停電もブラウンアウトと呼ぶ。日常すぎて、専用の軽い呼び名が定着してしまった。

マニラ首都圏では月に1〜3回程度。地方都市では週に数回。農村部では毎日。頻度は地域によって大きく異なるが、「停電がゼロ」という場所はフィリピンにはほぼ存在しない。

なぜ停電が多いのか

フィリピンの停電の原因は大きく3つに分類できる。

発電容量の不足: フィリピンの電力需要は経済成長に伴って年率4〜5%で増加しているが、発電所の建設が追いついていない。特に夏季(3月〜5月)はエアコン需要のピークと重なり、電力供給がギリギリになる。計画停電(ローテーション方式)が発令されることがある。

送電・配電インフラの老朽化: マニラ首都圏の配電を担うMeralco(メラルコ)の送電網は、一部が数十年前の設備のまま。台風や大雨で電柱が倒れ、復旧に数日かかることもある。

台風: フィリピンには年間約20個の台風が接近・上陸する。台風が直撃した地域では数日〜数週間の停電が発生する。2013年の台風ヨランダ(ハイヤン)ではレイテ島のタクロバン市が壊滅し、電力復旧に数ヶ月かかった。

停電への対策

フィリピンで長期滞在するなら、停電対策は「保険」ではなく「日用品」だ。

UPS(無停電電源装置)

デスクワーク中心の人は必須。APC等のUPSがPHP 3,000〜8,000(約8,100〜21,600円)で購入できる。停電時に5〜15分の給電を確保し、その間にPCのデータを保存する。

ポータブル電源・モバイルバッテリー

スマホの充電は生命線。20,000mAhクラスのモバイルバッテリーをPHP 1,500〜3,000(約4,050〜8,100円)で常備する。コンドミニアムのロビーや近隣のモール(モールは自家発電で停電しない)で充電する人も多い。

発電機(Generator)

一戸建てやビジネスオーナーは自家発電機を持つ。ガソリン式の小型発電機(3〜5kW)がPHP 15,000〜40,000(約40,500〜108,000円)。ディーゼル式の大型は法人向け。

コンドミニアムの高級物件は建物全体に非常用発電機が設置されているが、対象は共用部(エレベーター・廊下・給水ポンプ)のみで、各戸のエアコンまではカバーしないのが一般的。

ソーラーパネル

最近はソーラーパネルの導入も増えている。屋根置きの1〜3kWシステムがPHP 80,000〜200,000(約216,000〜540,000円)。電気代の高いフィリピンでは、投資回収期間は5〜7年程度とされる。

停電時の「過ごし方」

日本人にとって停電は「異常事態」だが、フィリピン人にとっては「たまにある日常」だ。

エアコンが止まる: これが最も辛い。マニラの平均気温は年間を通じて30℃前後。停電でエアコンが止まると、室温は15分で35℃を超える。窓を開けて扇子で扇ぐか、バルコニーに出るか、モールに避難するか。

信号が消える: 交差点の信号が消え、警察官が手動で交通整理を始める。慣れている。

水が止まることがある: 高層コンドミニアムの場合、電動ポンプで上階に水を送っているため、停電すると水圧が下がるか水が止まる。バスタブに水を溜めておく習慣がある家庭も多い。

ろうそく文化: フィリピンの家庭には必ずろうそくのストックがある。停電時にろうそくを灯して、家族で談笑する。スマホの明かりで済ませられる時代だが、ろうそくを灯す行為自体が「ブラウンアウトの風物詩」になっている。

物件選びと停電

外国人がマニラで物件を選ぶ際、「発電機の有無と範囲」は重要な確認事項だ。BGCの高級コンドミニアム(Serendra、Grand Hyatt等)は各戸のエアコン・コンセントまでカバーするフルバックアップが標準。中級物件はエレベーター・廊下・給水ポンプのみのパーシャルバックアップが多い。格安物件は発電機なしで、停電時はエレベーターも止まる。

BGCやマカティのBPOビルは自家発電設備を完備しているが、従業員の自宅が停電すれば在宅勤務は不可能になる。停電は個人のインフラ問題であると同時に、産業の課題でもある。

フィリピンの停電は「インフラの問題」であると同時に、「社会の適応力の証明」でもある。停電があることを前提に、発電機を準備し、水を溜め、ろうそくを買い、モールに逃げ込む。この国の人々は、電力という「当たり前」が当たり前ではない環境で、日常を回し続けるスキルを持っている。

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