フィリピンのデジタル政府は進んでいるか——eGovの現在地
フィリピン政府はデジタルトランスフォーメーションを推進中だ。PhilSysデジタルID、オンライン行政手続き、eSIM対応——進む改革と依然残る紙とキューの現実。
この記事の日本円換算は、1PHP≒3.6円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨の金額を基準にしてください。
フィリピン政府が「デジタル政府」を目指して動いている。2021年に始まった「フィリピン識別システム(PhilSys)」は、全国民に統一IDを発行する事業で、これまで複数の政府IDが乱立していた状況の整理を目指している。
日本でいえばマイナンバーカードに近いが、フィリピンの場合はまずIDを持たない国民が多いことが出発点だった。銀行口座開設、政府給付金の受け取り、選挙人登録——あらゆる場面でIDが必要なのに、特に農村・低所得層にIDを持たない人が多かった。
eGovernmentの取り組みは、行政手続きのオンライン化にも及んでいる。LTO(陸運局)での運転免許更新、BIR(国税庁)での税務申告、DFA(外務省)でのパスポート申請——これらは以前は「一日がかりで窓口に並ぶもの」という認識が強かったが、予約システムのオンライン化・電子申請の導入で少しずつ変わりつつある。
「少しずつ」というのは正直な評価で、システムが落ちたり、オンライン手続きをしたはずなのに現地でも長時間待つことになるなど、理想と現実のギャップはまだ大きい。
民間側のデジタル化はより速く進んでいる。GCash(モバイル決済)は2020年代に入って急速に普及し、銀行口座を持たない層がスマートフォンで送金・支払いをできるようになった。Maya(旧PayMaya)も同様の機能を提供している。
QRコード決済は屋台レベルまで普及しており、デジタルリテラシーの高い若い世代のフィリピン人にとって現金のみというシーンは急速に減りつつある。
外国人居住者の視点では、TIN(税務識別番号)の取得、ACR-Iカード(外国人登録証)の発行、ビザ延長手続きなどが主な行政接触点だ。これらの手続きは依然として窓口での対面処理が主流で、書類の多さと待ち時間が課題として続いている。
フィリピンのデジタル化は進んでいるか、という問いへの答えは「進んでいる、ただし不均等に」だ。都市部と農村部、若年層と高齢層、民間と行政の間に大きな差がある。その差を縮めることが今後の課題だ。