フィリピン政治を支配する「ファミリー」——政治王朝の現実
マルコス、アキノ、エストラーダ、ドゥテルテ——フィリピンの政治は少数の有力一族が繰り返し権力を握る構造が続く。政治王朝はなぜ生まれ、なぜ続くのか。
この記事の日本円換算は、1PHP≒3.6円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨の金額を基準にしてください。
2022年のフィリピン大統領選挙で当選したフェルディナンド・マルコスJr.(通称バンバン)は、独裁政権を敷いたフェルディナンド・マルコス元大統領の息子だ。副大統領に選ばれたサラ・ドゥテルテは、前大統領ロドリゴ・ドゥテルテの娘だ。
「まるで権力の家族経営だ」という印象は、フィリピン政治の実態をある程度正確に表している。
フィリピンには「政治王朝(Political Dynasty)」と呼ばれる現象がある。同一家族が何世代にもわたって国会議員・知事・市長を独占するパターンだ。1987年憲法には「政治王朝の禁止を法律で定める」という条文があるが、その実施法は今も議会で成立していない。議会を構成する議員の多くが王朝の当事者だからだ。
主要な政治王朝は全国に100以上存在するとされる(推定)。各省や市で、特定の苗字が繰り返し選挙結果に現れる。
なぜ有権者は同じ一族に票を入れ続けるのか。
ひとつは「顔見知り」の信頼だ。地域の顔として知られ、学校や病院を建てた実績がある一族への支持は、「彼らなら何かしてくれる」という実用的な期待に基づく。
もうひとつはパトロン関係だ。地方では有力一族が雇用・融資・行政サービスへのアクセスを事実上コントロールしていることがある。その一族と対立することは、生活上のリスクになりうる。
政治王朝と貧困の関係は、研究者の間で議論が続いている。「王朝が競争を排除して政策の質を下げる」という批判と、「王朝の存在が地域に安定をもたらしている側面もある」という見方が混在する。
フィリピンでは「選挙が民主主義を保証するか」という問いは難しい。投票は行われ、一定の自由もあるが、競争の前提条件に大きな不平等がある。政治王朝は、その不平等を制度として固定化する仕組みのひとつだ。
この構造を知ってからフィリピンのニュースを読むと、「なぜあの名字が何度も出てくるのか」という疑問が解けてくる。フィリピン政治の複雑さは、その構造を理解してからようやく見え始める。