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マニラの日本食は「ラーメン戦争」の次のフェーズに入った

マニラには一風堂、吉野家、丸亀製麺に加え、ローカル発の日本食チェーンが林立する。飽和する市場で、本物と模倣の境界線が溶けていくマニラの日本食事情。

2026-05-11
日本食ラーメンレストランマニラ食文化

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マニラのSMモールの3階で、あなたは選択を迫られる。左手に一風堂。正面に丸亀製麺。右手に吉野家。その向かいにTokyo Tokyo(フィリピン発の日本食チェーン)。さらに奥にYakimix(日本食ビュッフェ)。

日本食レストランが5軒、視界の中に同時に存在する。マニラのモール文化と日本食ブームが掛け合わさると、こういう風景が生まれる。

日本食チェーンの侵攻

フィリピンに進出した日本の外食チェーンは、数えきれない。

チェーン業態フィリピン店舗数(目安)価格帯
一風堂ラーメン約15店PHP 450〜650(約1,215〜1,755円)
丸亀製麺うどん約30店PHP 200〜350(約540〜945円)
吉野家牛丼約100店以上PHP 150〜300(約405〜810円)
CoCo壱番屋カレー約20店PHP 250〜450(約675〜1,215円)
やよい軒定食約20店PHP 300〜500(約810〜1,350円)
サイゼリヤイタリアン約10店PHP 200〜400(約540〜1,080円)

注目すべきは、これらの店がフィリピンでは「中〜高価格帯」に位置すること。一風堂のラーメン1杯PHP 500(約1,350円)は、ジョリビー(フィリピン最大のファストフード)のチキン定食PHP 120(約324円)の4倍以上。日本食はフィリピンでは「ちょっと贅沢な外食」だ。

フィリピン発の「日本食」チェーン

日本から来たチェーンと並んで、フィリピン発の「日本食風」チェーンも勢力を持っている。

Tokyo Tokyo: フィリピン最大の日本食風チェーン。メニューはチキンカツ、カレー、テリヤキ、天ぷら——日本食のヒット商品を全部詰め込んだ構成。日本人の感覚では「和食テーマパーク」に近い。味は悪くないが、日本の定食屋とは別物。

Teriyaki Boy: テリヤキとドンブリが中心。学生やファミリーに人気。

Botejyu: 大阪発のお好み焼きチェーンだが、フィリピンではフランチャイズ展開により日本食全般を提供するファミレスに近い業態。

これらの店は「日本食」と名乗っているが、味はフィリピン人の好みにローカライズされている。甘めの味付け、ご飯の量が多い、揚げ物が多い——フィリピン人の食の好みが反映されている。

個人経営の「本物」

チェーン店の向こう側に、個人経営の本格日本食店がある。日本人シェフが手がける店は、マカティ、BGC、リトルトーキョー(マカティ)周辺に集中している。

マカティのリトルトーキョー(Little Tokyo)は、小さな日本食レストランが10軒以上集まるエリアだ。居酒屋、焼き鳥、寿司、ラーメン——日本のサラリーマンが仕事帰りに寄る店の雰囲気がそのまま移植されている。客層は半分が日本人駐在員、半分がフィリピン人。

BGCにも本格的な寿司やおまかせの店が増えている。カウンター10席の寿司店でPHP 3,000〜5,000(約8,100〜13,500円)のおまかせコース。東京の同レベルの店の半額以下だが、ネタの質は産地が違うため比較が難しい。フィリピン近海で獲れるマグロは十分に上質だが、日本の築地で仕入れる店とは別の味だ。

日本食材の入手

マニラで日本の食材を手に入れる手段は充実している。

S&R Membership Shopping: コストコ型の会員制スーパー。日本の調味料、冷凍食品、菓子類がある程度揃う。

Landers Superstore: S&Rと同様の業態。日本食品コーナーがある。

New Hatchin: マカティのリトルトーキョー近くにある日本食材店。品揃えはマニラで最も充実している部類。

オンライン: Lazada、Shopeeで日本食材が買える。冷凍の納豆、うどん、ラーメン、和菓子など。配送に1〜3日。

基本的な調味料(醤油、味噌、みりん、酒、酢、だし)はどのルートでも入手可能。ただし価格は日本の2〜3倍になるものが多い。

フィリピン人と日本食

フィリピン人にとっての日本食の位置づけは、日本人のイタリアンやフレンチに近い。「好きだし、よく食べるけど、毎日は食べない」。

フィリピン人に最も人気がある日本食は、ラーメン、寿司(サーモン中心)、カツ、テリヤキ。共通点は「味が濃い・甘い・揚げ物」で、フィリピン人の味覚の好みと合致している。逆に、刺身(特に白身魚)、漬物、茶碗蒸しなどの「繊細な味」は浸透しにくい。

面白いのは、フィリピンの日本食が「逆輸入」的に新しい味を生んでいること。シシグ(フィリピン料理)をのせた丼、マンゴーが入った巻き寿司、ウベ(紫芋)アイスが添えられた抹茶パフェ——日本人の感覚では「それは日本食なのか?」と思うが、フィリピンでは「Japanese-Filipino fusion」として成立している。

料理は移動する。移動先の土地の食材と味覚と混ざり合い、元の形から変わっていく。マニラの日本食は、日本を離れた日本食が、どう変容していくかの実験場だ。一風堂のラーメンとTokyo Tokyoのテリヤキが同じモールの同じフロアに並んでいる風景は、その実験の現在地を示している。

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