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ジプニーの近代化——文化遺産vs交通改革のジレンマ

フィリピンの象徴的な乗り物ジプニーが近代化政策で姿を変えつつある。文化的アイコンとしての価値と、排ガス問題・老朽化・交通混雑という現実の間で起きている変化を解説。

2026-04-24
ジプニー交通フィリピン文化近代化マニラ

この記事の日本円換算は、1PHP≒2.7円で計算しています(2026年4月時点)。

マニラの街を歩くと、原色のペイントと派手な飾りで覆われた乗り物が目に入る。ジプニーだ。アメリカ軍が残したジープを改造して生まれたこの乗り物は、フィリピンの「走る芸術」と言われてきた。

しかし今、ジプニーは変わろうとしている。いや、政府によって変えられつつある。

ジプニーとは何か

ジプニーはフィリピン独自の乗合バスだ。ルートが決まっており、乗り降りは基本的に乗客が手を挙げた場所で降りる(「パラ(para/止めてください)」と言う)。

運賃は最初の4kmで13PHP(約35円)程度と非常に安価で、低所得層にとって不可欠な交通手段だ。車内のデザインはオーナーの個性によって全く異なり、聖人の絵・LEDライト・キャラクター・国旗など、走るギャラリーのようなものもある。

フィリピン観光省は長年、ジプニーを「文化遺産」として観光アイコンに位置づけてきた。

近代化政策——何が変わったか

フィリピン政府は2017年から「公共交通車両近代化プログラム(PUVMP: Public Utility Vehicle Modernization Program)」を開始した。古い(15年以上の)ジプニーをユーロ4基準以上の排ガス規制を満たす新型車両に置き換えるという方針だ。

対象は主にミニバス型の近代ジプニー(電気または低排ガスエンジン、冷房付き、GPS搭載)への転換。外観も従来の派手なデザインとは異なり、統一規格に近い。

新型ジプニーの価格は1台あたり約1,400,000〜2,200,000PHP(約3,780,000〜5,940,000円)。旧型は数十万PHPで済んでいたものが、その3〜5倍の費用になる。

運転手・オーナーへの打撃

ジプニーの多くは個人オーナーが所有・運転しているか、オーナーがドライバーに運転を委託する形態だ。

新型への転換費用を個人で賄えないオーナーは、協同組合(cooperative)に加入して融資を受けるか、廃業するかの選択を迫られた。

近代化プログラム反対のストライキは2023年〜2024年にかけて複数回発生した。「交通の民主化を奪う政策だ」「文化の破壊だ」という批判と、「老朽車両による事故・排ガスを解決するために必要だ」という賛成意見が激しく対立した。

在住者の目線から見た変化

マニラ在住者の日常的な感覚として、近代ジプニーは確かに快適だ。冷房・定員制・GPS追跡機能がある。しかし「マニラらしさ」が薄れていくという喪失感も聞かれる。

観光で来た旅行者が「あのカラフルなジプニーに乗りたい」と言っても、旧型ジプニーはマニラ中心部から減りつつある。セブ・ダバオでは旧型が残っているエリアもある。

近代化の流れは止まらないだろうが、ジプニーが持っていた「個人の表現としての乗り物」という性質が失われていくことへの惜しむ声は、フィリピン人の間にも確実に存在している。

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