サリサリ文字と信用——フィリピン路地の金融システム
フィリピンの路地に必ずある小さな店「サリサリストア」。そこには帳面に書かれた「ウタン(借り)」の記録がある。現金が足りない人々の生活を支える非公式信用の実態。
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フィリピンのどのバランガイにも、木製の棚に小袋のシャンプー、袋麺、砂糖、塩、缶詰、タバコ1本売りが並ぶ小さな店がある。サリサリストア(sari-sari store)だ。「サリサリ」はタガログ語で「いろいろな」を意味する。
この店の奥には、多くの場合ノートがある。「ウタン(utang)」——つまり、ツケの記録帳だ。
サリサリストアのオーナー(たいていは女性の家長)は、近所の顔見知りに「今日はお金がないから後で払う」という信用販売をする。これは正式な与信審査のない非公式の融資だ。記録はノートに手書きされ、支払いは給料日か収入が入ったときにまとめてする。
この仕組みは銀行口座を持たない・持てない低所得層にとって実質的な金融インフラだ。急に食材が必要なとき、子どもの薬を買わなければならないとき、「後で払う」という選択肢があることで生活が続けられる家庭がある。
ツケを返さない客がいることも現実で、店が損を抱えるリスクは常にある。それでも断れない理由は「ウタン・ナ・ロオブ(utang na loob)」という概念にある。恩義・義理に近い感覚で、助けた側と助けられた側の間に生まれる相互的な責任感だ。
ツケを踏み倒すことは、この価値観の中では単なる経済的な問題に留まらない。それは地域の人間関係への裏切りでもある。だから完全な不払いより、少しずつ返していく人が多い。
サリサリストアは家族経営で、利幅は薄い。大型スーパーや24時間コンビニチェーンが普及してきたことで、競合は増えている。それでもサリサリストアが消えないのは、ツケという機能と「近所のおばさんとの関係」という価値が、スーパーには代替できないからだ。
GCash(モバイル決済)の普及とともに、デジタルでのツケ記録や少額融資サービスも登場しており、サリサリ経済のデジタル化も徐々に始まっている。ただし、紙のノートとおばさんの顔の見えるツケが消えるまでには、まだ時間がかかりそうだ。
路地のサリサリストアに一歩入ると、フィリピンの経済の底がどう動いているかが見えてくる。洗練された金融システムの手前にある、顔と顔の信用の経済だ。