ポルトガルの廃村が「再生」される——人口ゼロの村を買い取る人々の論理
ポルトガル内陸部には人口ゼロの廃村が数百ある。それを外国人やスタートアップが購入し、エコビレッジやリモートワーク拠点に再生する動きが加速している。
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ポルトガルには「売りに出されている村」がある。村まるごと、だ。
内陸部のアレンテージョやベイラ地方には、住民がゼロになった集落が数百あると推定されている。20世紀後半の都市部への人口流出で住民が去り、残った高齢者も亡くなり、石造りの家だけが山の斜面に並んでいる。その村が、EUR 50,000〜300,000(約800万〜4,800万円)で不動産サイトに掲載されている。
東京の1LDKマンションを買う金額で、村が手に入る。
なぜ村が「売り物」になるのか
ポルトガルの人口は約1,040万人。そのうちリスボンとポルト都市圏に約500万人が集中している。国土の3分の2を占める内陸部は、人口密度が1平方キロメートルあたり20人を下回る地域がざらにある。日本の過疎地域の基準(1平方キロあたり50人以下)より、さらに過疎だ。
EU加盟後、若者はリスボンやドイツ、フランスに出て行った。村の土地は相続されるが、相続人は都市部に住んでおり、管理も売却もせずに放置される。固定資産税(IMI)は安いので、持っていても負担にならない。こうして「オーナーはいるが住人はいない」村が増えた。
ところが2010年代後半から、この廃村に目をつける人々が現れた。
買い手の3パターン
1. エコビレッジ構想
環境意識の高いヨーロッパ人(特にオランダ、ドイツ、イギリス出身者)が、廃村を買い取ってエコビレッジやパーマカルチャー農場に変える動きがある。太陽光発電、雨水利用、自給自足農業——都市型消費社会のアンチテーゼとして、ポルトガルの廃村は理想的な「実験場」になっている。
ポルトガル中部のTabuaço近郊の集落を購入し、コミュニティ農園に再生したオランダ人グループの事例では、購入費EUR 80,000(約1,280万円)に加えて改修費EUR 200,000(約3,200万円)を投じている。
2. リモートワーク拠点
COVID-19以降、場所に縛られない働き方が定着した。ポルトガルはデジタルノマドビザを導入し、リモートワーカーの誘致に力を入れている。廃村の安い不動産とポルトガルの温暖な気候の組み合わせは、「都市の喧騒から離れて仕事をしたい」層に刺さる。
実際に、廃村を改修してコワーキングスペース付きの滞在施設に変えたプロジェクトもある。
3. 観光・民泊開発
アグリツーリズモ(農村観光)の一環で、廃村の石造りの家をブティックホテルに改装するプロジェクトも増えている。EU構造基金やポルトガル政府の農村振興補助金を活用できるケースがある。
買うのは簡単、住むのは難しい
ただし、廃村の購入には落とし穴がある。
インフラの不在: 電気・水道・道路が整備されていない、あるいは老朽化して使えない村がある。インフラの再整備費用は購入価格を上回ることも珍しくない。
建築許可の迷宮: ポルトガルの建築許可(Licença de Construção)は取得に時間がかかる。特に農村部の自治体(Câmara Municipal)は人手が少なく、許可が下りるまで1年以上待たされることがある。
所有権の複雑さ: 相続で所有権が細分化されている村では、売買の前に全相続人の同意を取る必要がある。相続人が海外に散らばっているケースでは、この交渉だけで数ヶ月かかる。
孤立: 最寄りのスーパーまで車で30分、病院まで1時間、ということがある。冬は道路が凍結し、携帯電話の電波が入らない場所もある。「自然の中の暮らし」は、不便さとセットだ。
日本の限界集落との対比
日本でも限界集落の問題は深刻だが、ポルトガルとはアプローチが異なる。日本は自治体主導で移住者を募集し、空き家バンクで物件を仲介する。ポルトガルでは、政府の関与は薄く、民間(主に外国人)が市場原理で動いている。
もう一つの違いは、ポルトガルの廃村の建物が石造りであること。日本の木造空き家は放置すると10年で朽ちるが、ポルトガルの石壁は100年経っても構造が残る。改修の余地がある、というのは大きい。
村を買うという選択
廃村の購入は「夢」として語られることが多いが、現実には法的・物理的なハードルが高い。しかし、ポルトガルの不動産価格が上がり続ける中で、「リスボンのアパートを買う代わりに、内陸部の村を買う」という選択肢は、コスト面では合理的だ。
リスボン中心部の50㎡のアパートがEUR 300,000(約4,800万円)。同じ金額で、石造りの家が10軒ある村を買える。
何が「合理的」かは、その人が何を求めているかによる。都市の便利さを求めるなら廃村は選択肢に入らない。しかし「ポルトガルの土地を持ち、自分の手で何かをつくる」ことに価値を見出す人にとって、廃村は世界で最もコストパフォーマンスの高い不動産かもしれない。