年金受給者が労働者より多い国になる日|ポルトガルの高齢化と財政の綱渡り
ポルトガルの高齢化率はEU内で3番目に高い。出生率1.35、若者の流出、年金支出がGDPの13%超。この構造が在住者の医療や公共サービスにどう影響しているか。
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ポルトガルの合計特殊出生率は約1.35。人口維持に必要な2.1を大きく下回っている。65歳以上の人口比率は約24%で、EU加盟国の中でイタリア、ギリシャに次いで3番目に高い。
この国の年金支出はGDPの約13.5%。EU平均の約12%を超えている。そして、この数字は今後さらに上がる。
若者はなぜ出ていくのか
ポルトガルの最低賃金は月額EUR870(約13万9,200円)。2019年のEUR600から大幅に引き上げられたものの、リスボンの1ベッドルームの平均家賃EUR900〜1,300を考えると、最低賃金では家賃すら払えない。
この経済構造が、若年層の国外流出を加速させている。ポルトガルの大学卒業者のうち約20%が卒業後5年以内に国外に移住するというデータがある。行き先はフランス、イギリス、ドイツ、スイス。高い給与と安定した雇用を求めて。
皮肉なことに、ポルトガルのD7ビザやNHR税制優遇で流入する外国人退職者は増えている。若者が出て、高齢の外国人が入ってくる。人口構成の歪みは拡大する一方だ。
SNS(国民保健サービス)の負荷
高齢化の影響が最も直接的に現れるのが医療システムだ。ポルトガルの国民保健サービスSNS(Serviço Nacional de Saúde)は全住民に無料の基本医療を提供しているが、慢性的な医師不足と待ち時間の長さが問題になっている。
家庭医(médico de família)の登録待ちは地域によって6ヶ月〜1年以上。専門医の予約は数ヶ月待ちが標準。結果として、支払い能力のある人は民間の医療保険に加入し、私立病院を利用する。公的医療と民間医療の二重構造が固定化している。
在住外国人にとっても、SNSの待ち時間の長さは日常的な課題だ。
年金制度の構造
ポルトガルの公的年金(Segurança Social)は賦課方式。現役世代の保険料で退職世代の年金を支払う。保険料率は労働者負担11%、雇用主負担23.75%、合計34.75%。
平均年金額は月額約EUR550〜600(約8万8,000〜9万6,000円)。ポルトガルの生活費水準を考慮しても、これだけで暮らすのは厳しい。年金だけで生活できないため、退職後も非正規で働く高齢者は多い。
移民に頼る労働力
人口減少を補うために、ポルトガルは近年、移民の受け入れを積極化している。2023年の合法移民数は約100万人を超え、総人口の約10%に達した。ブラジル、インド、バングラデシュ、ネパールからの移民が多い。
建設、農業、観光、飲食——低賃金セクターの労働力は移民に依存しており、彼らの社会保険料が年金財政を支えている構造がある。
在住者が見える風景
リスボンやポルトのカフェで午前中に座っている高齢者の多さは、東京とは異なる光景だ。公園のベンチ、教会の前、市場の片隅。時間の使い方が違う。
一方で、スーパーや飲食店で働いているのは移民の若者が多い。ポルトガル人の若者はロンドンやパリで働き、彼らの親世代の年金をブラジルやインドからの移民が支えている。
この構造に持続性があるかどうかは、ポルトガルに長く住むなら考えておくべき問いだ。公共サービスの質は、それを支える経済の健全性に直結している。