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アレンテージョの静寂——ポルトガルの半分が空っぽになっている

ポルトガルの面積の約3分の1を占めるアレンテージョ地方の人口密度は1km²あたり約19人。東京都の300分の1以下。過疎化が進む内陸部の現実と、そこに移住する外国人の存在。

2026-05-24
ポルトガルアレンテージョ過疎化内陸部移住

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ポルトガルの国土面積は約9万2,000km2。そのうち約3分の1を占めるアレンテージョ(Alentejo)地方の人口は約47万人。人口密度は1km2あたり約19人。東京都の6,000人/km2と比べると、300分の1以下の空間に人が点在している。

リスボンから車で1時間半。風景は一変する。

なぜ人がいなくなったのか

アレンテージョの人口減少は1960年代に始まった。サラザール独裁政権下の低賃金と農業の機械化が、農村部から都市部(リスボン・ポルト)への大量移住を引き起こした。1974年のカーネーション革命後も流出は止まらず、EU加盟(1986年)後はフランスやドイツへの移住が加速した。

60年間で人口は半減した地域もある。1960年に3,000人いた村が現在は800人。そのうち半数以上が65歳以上。学校が閉鎖され、医療施設が撤退し、バス路線が廃止される。公共サービスの縮小がさらなる流出を招く負のスパイラルだ。

コルクの木と羊と沈黙

アレンテージョの風景は、なだらかな丘陵にコルク樫(sobreiro)とオリーブの木が点在するモンタード(montado)と呼ばれる農林生態系だ。世界のコルク生産量の約50%がポルトガル産で、その多くがアレンテージョで収穫される。

車で30分走っても人家が見えないことがある。道路脇に羊の群れがいて、牧羊犬が寝そべっている。空気の透明度が高く、夜は天の川が肉眼で見える。この静寂を「寂しい」と感じるか「贅沢」と感じるかで、アレンテージョに住めるかどうかが決まる。

外国人が買う廃村

過疎化の裏側で、アレンテージョの不動産は外国人の注目を集めている。廃屋付きの土地がEUR30,000〜80,000(約480万〜1,280万円)で売られており、リノベーションして住む外国人が増えている。

イギリス人、ドイツ人、オランダ人、フランス人が多い。リモートワーカーやアーティスト、退職者が「静かな場所で安く暮らしたい」という動機で移住してくる。

ただし、「安い」には理由がある。最寄りのスーパーまで車で30分、病院まで1時間、英語が通じる場所は皆無に近い。インターネット回線の品質は地域によって大きく異なり、光回線が来ていない村も残っている。

政府の「内陸振興策」

ポルトガル政府は内陸部の過疎化対策として、税制優遇や移住支援を打ち出している。「Interior」と呼ばれる内陸地域に移住する労働者への所得税減免や、テレワーカー向けのコワーキングスペース整備がその一部だ。

しかし、効果は限定的だ。若者がアレンテージョに戻る経済的インセンティブが弱く、雇用機会の少なさが根本的な障壁になっている。農業とツーリズム以外の産業が育たなければ、人口減少のトレンドは反転しない。

「余白」としての価値

アレンテージョを「問題」として見る視点と、「可能性」として見る視点がある。

過疎化は公共サービスの劣化と高齢化を意味するが、同時に、ヨーロッパの中で数少ない「余白」が残された場所でもある。日本の地方過疎化と構造は似ているが、気候が温暖で、EU圏内であるという点が異なる。

リスボンの喧騒に疲れたとき、車を南に走らせてアレンテージョの空の広さを見ると、都市生活のスケール感がリセットされる。住む場所としては万人向けではないが、知っておくべき風景ではある。

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