コルク産業——世界のコルクの半分を産出するアレンテージョ地方
ポルトガルは世界のコルク生産量の約50%を占める。アレンテージョのコルク樫の森・持続可能な採取方法・コルク産業の経済規模と在住者が感じるポルトガルらしさ。
ワインのコルク栓を抜くとき、それがポルトガル産である確率は約半分だ。ポルトガルは世界のコルク生産量の約50〜55%を占める最大の産地(APCOR・ポルトガルコルク協会統計)で、コルクはポルトガルが世界に誇る数少ない「独占に近い産業」の一つだ。
コルクとは何か
コルクはコルク樫(学名: Quercus suber)の樹皮から作られる。特徴的なのは、樹皮を剥いでも木が死なない点だ。約9〜12年で樹皮が再生し、再び採取できる。コルク樫は数百年生きることができ、適切に管理すれば繰り返し採取が可能な完全な持続可能資源だ。
採取は手作業で行われる。9〜12年に一度、専門の職人(コルチャドール)が斧で丁寧に樹皮を剥いでいく。この技術は今もほぼ機械化されておらず、ポルトガルの伝統的な技が維持されている。
アレンテージョの「モンタード」
コルク樫の森は「モンタード(montado)」と呼ばれるポルトガル独自の農林業システムだ。コルク樫の下でイベリコ豚を放牧し、ドングリを食べさせながら育てる。木・豚・大地の三者が循環する農業スタイルで、生物多様性の維持にも貢献している。
アレンテージョのモンタードは欧州委員会からも高い評価を受けており、EU農業遺産的な位置づけだ。
コルク産業の規模
ポルトガルのコルク産業の年間輸出額は約10億〜11億ユーロ(APCOR統計、近年)。ワインコルク以外にも、建設断熱材・フローリング・航空宇宙産業の素材・ファッション(バッグ・靴)など多様な用途に広がっている。
コルク素材を使った製品はリスボン・ポルトの土産物店で多く売られており、財布・ハンドバッグ・傘が人気だ。軽くて丈夫で独特の質感を持つコルク製品は、在住者が「ポルトガルらしいお土産」として帰国時に持ち帰ることが多い。
在住者がコルク産業と出会う場面
アレンテージョをドライブすると、道路沿いに幹が黒ずんで剥ぎ取られたコルク樫が並んでいる光景を見る。「なぜ皮が剥げているのか」と思って調べると、コルク採取の仕組みがわかる。知識が現地の景色に意味を与える瞬間だ。
エヴォラ(Évora)やベージャ(Beja)周辺にはコルク工場の見学施設もあり、生産プロセスを実際に見られる。リスボンから日帰りでアレンテージョの農村地帯を訪れると、「ポルトガルの農業と産業の土台」を体感できる。
コルクはポルトガルの「目立たない本質」だ。ワインのコルク栓を一本抜くたびに、アレンテージョの森と職人の手仕事がそこにある。