「ポルトガルの秋田」——リスボンの裏側で進む過疎と村の消滅
ポルトガルの内陸部では過疎化が深刻です。EU内で最も高齢化が進んだ国のひとつであるこの国の、リスボンからは見えない「もうひとつの現実」を報告します。
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ポルトガルの人口は約1,040万人。そのうちリスボン都市圏に約290万人、ポルト都市圏に約170万人が集中しています。合わせると国の人口の約44%。残りの56%が、広大な内陸部と南部に散らばっています。
しかし、その散らばり方は均一ではありません。内陸部の多くの村では、住民が10人以下になっています。
消えていく村
ポルトガル中部のベイラ・バイシャ地方、北東部のトラス・オス・モンテス地方——これらの地域では、数十年にわたって人口流出が続いています。若者はリスボンやポルトへ、あるいはフランス・ルクセンブルク・スイスへ移住し、村には高齢者だけが残りました。
INE(国立統計局)の2021年国勢調査によると、ポルトガル内陸部の複数の自治体で、10年間に20%以上の人口減少が記録されています。カステロ・ブランコ県のイダーニャ・ア・ノヴァ自治体では、人口密度が1平方キロメートルあたり約6人。東京23区の約16,000人/km2と比べると、想像もつかない低密度です。
「高齢化先進国」としてのポルトガル
ポルトガルの高齢化率(65歳以上の人口比率)は約24%(2023年、Eurostat)で、EU内でイタリアに次いで2位です。出生率は1.35(2023年)で、人口置換水準(2.1)を大きく下回っています。
内陸部に限れば、状況はさらに深刻です。トラス・オス・モンテスの小さな村では、最も若い住民が60代ということも珍しくありません。学校が閉鎖され、医療施設もなく、最寄りの病院まで車で1時間以上——こうした条件が、さらなる人口流出を加速させる負のスパイラルです。
移民が支える構造
皮肉なことに、ポルトガルの全体人口が2010年代後半から微増に転じた主な要因は、移民の増加です。ブラジル、アンゴラ、インド、バングラデシュ、ネパールからの移民がリスボンやポルト周辺に流入し、出生率低下による自然減を部分的に相殺しています。
しかし、移民が内陸部の過疎地に向かうことはほとんどありません。仕事もインフラもない場所に、移民が定着する理由がない。結果として、沿岸の大都市は人口増加、内陸の農村は人口消滅——という二極化がさらに進行しています。
村の再生プロジェクト
いくつかの自治体や民間団体が、過疎村の再生に取り組んでいます。
アルデイアス・ド・シスト(Aldeias do Xisto): シスト(頁岩)造りの伝統的な石造り集落群を観光資源として再生するプロジェクト。中部ポルトガルの27の村が参加し、宿泊施設やハイキングコースを整備しています。村の建物をリノベーションしたゲストハウスは1泊50〜120EUR(約8,000〜19,200円)。
リモートワーク誘致: パンデミック後、一部の自治体がデジタルノマドや在宅勤務者の誘致を試みています。家賃200〜400EUR/月(約3.2万〜6.4万円)という価格とインターネット環境の整備をアピール。ただし、高速インターネットが整備されていない村も多く、成果はまだ限定的です。
日本との類似
この光景には、日本人として既視感があります。秋田・島根・高知——日本の地方部で起きている過疎化と、ポルトガルの内陸部で起きていることは構造的にほぼ同じです。
若者の都市への流出、高齢化、公共サービスの縮小、インフラの老朽化——解決策も似ています。移住者の誘致、テレワークの推進、観光資源の活用。しかし、決定的な打開策はどちらの国でも見つかっていません。
在住日本人にとっての内陸部
リスボンやポルトに住む在住日本人が内陸部を訪れる機会は、車旅行やワイナリー巡りくらいです。しかし、ドウロ渓谷のぶどう畑やアレンテージョの平原を車で走ると、「誰もいない美しさ」に出会います。
石造りの家が崩れかけた無人の村、放牧された羊だけがいる丘、営業しているかわからないカフェ——リスボンの喧騒とは別の世界がここにあります。
ポルトガルは「移住先として人気」「デジタルノマドの聖地」と語られることが多い。しかし、その人気はリスボンとポルト、せいぜいアルガルヴェに限った話です。国土の大部分は、静かに人がいなくなっていく場所です。