若者が出ていく国ポルトガル|頭脳流出と「帰ってこない世代」
ポルトガルの大卒者の約30%が国外に移住する。EU圏内で最も低い賃金水準が原因だ。流出先はフランス、イギリス、ドイツ。政府の引き留め策は機能しているのか。
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ポルトガルの最低賃金は月額EUR870(約13万9,200円、2025年時点)。EU圏内で下から数えた方が早い水準だ。リスボンの家賃がEUR800〜1,200かかる現実と並べると、最低賃金で暮らすのがほぼ不可能であることがわかる。
結果として、大卒者の約30%が卒業後5年以内に国外に移住する。
出ていく先
ポルトガル人の移住先トップ3はフランス、イギリス、スイス。歴史的にフランスとの結びつきが強く、パリやリヨンにはポルトガル人コミュニティが定着している。フランスには約60万人のポルトガル系住民がいるとされる。
近年はドイツ、オランダ、ルクセンブルクへの移住も増えている。IT・エンジニアリング分野ではベルリンやアムステルダムが人気だ。ポルトガルのIT企業の初任給がEUR1,200〜1,500/月なのに対し、ドイツでは同じポジションでEUR3,500〜4,500/月が提示される。
「サウダーデ」では帰れない
ポルトガル語のsaudade(サウダーデ)は、故郷や過去への切ない郷愁を意味する。ポルトガル文化の根幹にある感情だ。しかし、サウダーデだけでは帰国の動機にならない。
帰国を妨げているのは賃金格差だけではない。ポルトガルの労働市場の構造的な問題がある。正規雇用のポジションが少なく、有期契約(contrato a termo)の割合が高い。社会保障費の雇用主負担が重く、企業が正社員を増やしにくい構造だ。
政府の対策
2019年に「Programa Regressar(帰還プログラム)」が開始された。海外に2年以上住んだポルトガル人が帰国した場合、所得税を5年間50%減免するという施策だ。
また、NHR(非常居住者)制度の後継として2024年に導入された「IFI(税制優遇)」は、帰国者だけでなく新規の外国人居住者も対象にしている。
しかし、税金を減らしても賃金そのものが低ければ効果は限定的だ。「月EUR1,500の給料の税金が半分になっても、月EUR4,000の給料には勝てない」というのが、ドイツで働くポルトガル人エンジニアの率直な感想だ。
移民の流入で補う
皮肉なことに、ポルトガル人が出ていく一方で、ブラジル、インド、ネパール、バングラデシュからの移民が急増している。2024年のポルトガルの在留外国人数は100万人を超え、人口の約10%に達した。
飲食業、建設業、介護・清掃業では移民労働者が不可欠な存在になっている。リスボンのレストランで注文を取るスタッフがブラジル人で、キッチンにネパール人がいるのは珍しくない。
在住日本人にとって
ポルトガルの賃金水準は、日本人がリモートワークや年金で生活する分にはむしろ有利に働く。外貨収入がある場合、ポルトガルの生活コストは相対的に低い。
しかし、現地で就職しようとすると状況は一変する。ポルトガル企業の給与水準は西欧で最低クラスだ。現地採用で働く場合は、この現実を織り込んだ上で生活設計を組む必要がある。
若者が出ていく国に、外国人が入ってくる。この人の流れのねじれが、今のポルトガルの姿だ。