ポルトガルの半分は空っぽだ——内陸部の過疎化が映し出すヨーロッパの未来
リスボンとポルトに人口が集中する一方、内陸部の村は消滅の危機にある。過疎化率80%を超える地域から見える、ポルトガルの「もう一つの顔」を描きます。
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リスボンから車で3時間東に走ると、風景が一変する。オリーブ畑とコルク樫の丘陵が続き、集落は点在するが人の気配がほとんどない。石造りの家が並ぶ村に入ると、窓は板で塞がれ、教会の鐘は鳴らなくなっている。ポルトガルの内陸部(Interior)は、静かに消えつつある。
数字が語る現実
ポルトガルの人口約1,030万人のうち、約70%がリスボン都市圏とポルト都市圏の沿岸部に集中している。内陸部の人口密度は1km²あたり15〜20人程度の地域もあり、これはヨーロッパの中でも最も低い水準だ。
過去30年間で内陸部の多くの市(concelho)が人口の30〜50%を失った。若者は学業や仕事のためにリスボンやポルトに出て、戻ってこない。残るのは高齢者だ。村によっては住民の平均年齢が70歳を超えている。
なぜ人が去ったのか
ポルトガルの過疎化には複数の要因がある。
EUへの加盟(1986年): ヨーロッパ単一市場への参加は、都市部の経済成長を加速させたが、内陸部の小規模農家は競争力を失った。フランスやスペインからの安い農産物に太刀打ちできず、農業で食べていけなくなった。
出稼ぎの伝統: ポルトガルには19世紀から続く出稼ぎ文化がある。フランス、ルクセンブルク、スイスへの労働移民は世代を超えて続いており、内陸部の若者にとって「出ていくこと」は自然な選択肢だった。
インフラの格差: 高速道路、鉄道、病院、大学——すべてが沿岸部に集中している。内陸部では最寄りの病院まで1時間以上かかる地域がある。
火災という追い打ち
内陸部の過疎化はもう一つの問題と絡み合っている。森林火災だ。2017年の大規模火災ではペドロガン・グランデ周辺で66人が亡くなった。過疎化で管理されなくなった森林にユーカリの植林が拡大し、可燃性の高い環境が広がったことが被害を拡大させた。
人がいなくなった土地は荒れ、荒れた土地は燃え、燃えた土地にはますます人が住まなくなる。この悪循環がポルトガルの内陸部を襲っている。
再生の試み——リモートワーク誘致
近年、内陸部の自治体はリモートワーカーの誘致に動き始めている。コヴィリャン、フンダン、カステロ・ブランコといった内陸の町では、コワーキングスペースの整備、家賃補助、移住者向けの助成金を提供するプログラムが立ち上がっている。
EU資金を活用した「Smart Village」プロジェクトも複数進行中で、高速インターネットの整備が進んでいる地域もある。リスボンの家賃がT1(1ベッドルーム)で月€1,000を超える中、内陸部では€300〜€400で十分な広さの住居が借りられることは、リモートワーカーにとって魅力的だ。
在住者として内陸部に触れる
リスボンやポルトに住んでいる日本人が内陸部を訪れる機会は少ない。だが、車で数時間走るだけで、まったく異なるポルトガルに出会える。モンサント(巨石の間に家が建つ村)、ソルテーリャ(中世の城壁が残る村)、ピオダン(片岩の村)——観光地として残っている場所はあるが、その周囲には人の消えた集落が広がっている。
ポルトガルの過疎化は、日本の地方が抱える問題と驚くほど似ている。人口減少、高齢化、都市一極集中、放棄された農地——同じ構造が大西洋の向こう側でも進行している。