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ポルトガルが毎年燃える理由——ユーカリの単一植林が作った「可燃性の国土」

ポルトガルの山火事はなぜ繰り返されるのか。製紙産業のためのユーカリ植林が国土の植生を変え、火災リスクを構造的に高めた歴史と、2017年の大火災後の対策。

2026-05-14
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ポルトガルの国土面積のうち約26%がユーカリに覆われている。オーストラリア原産の木が、なぜイベリア半島の小国で最大の植林面積を持つのか。答えは製紙産業だ。そしてこの「答え」が、毎年数百人が避難し、時に数十人が命を落とす山火事の構造的な原因になっている。

ユーカリはなぜポルトガルに来たか

1960年代、ポルトガルの製紙会社Portucelとthe Navigator Companyの前身が、パルプ原料としてユーカリの大規模植林を始めた。ユーカリは成長が速い。松が木材として使えるまで30〜40年かかるのに対し、ユーカリは12〜15年で伐採できる。

さらに、ポルトガルの農村が急速に過疎化していた。1960年代〜70年代、フランスやドイツへの出稼ぎ労働が急増し、内陸部の農村から若者が消えた。耕作放棄された土地に、手間のかからないユーカリが植えられた。

2020年代の統計で、ポルトガルの森林面積約310万ヘクタールのうち、ユーカリは約84万ヘクタール。松(約71万ヘクタール)を抜いて最大の樹種になった。The Navigator Companyはポルトガル最大の輸出企業の一つで、コピー用紙ブランド「Navigator」は欧州市場で高いシェアを持つ。

つまり、ユーカリはポルトガル経済を支えている。同時に、国土を燃えやすくしている。

なぜユーカリは燃えやすいのか

ユーカリの葉は油分を多く含む。この油分が蒸発して空気中に充満すると、火がついた瞬間に爆発的に燃え広がる。オーストラリアの山火事が激しいのと同じ理由だ。

さらに厄介なのは、ユーカリの樹皮が細長く剥がれ落ちる性質。燃えた樹皮片が風に乗って数百メートル先に飛び、新たな火点を作る。消防隊が火元を消しても、飛び火で別の場所が燃え始める。

松林との比較で言うと、松も樹脂を含むため燃えやすいが、ユーカリほどの飛び火は起こさない。ユーカリの単一植林地帯では、地面にユーカリの枯れ葉が厚く積もり、これが火の「床」になる。下草を刈らなければ、着火から数分で制御不能になる。

2017年の大火災

2017年6月17日、ポルトガル中部ペドロガン・グランデで発生した山火事は、66人の命を奪った。犠牲者の多くは、炎に囲まれた道路を車で逃げようとして亡くなった。

同年10月にもポルトガル中北部で大規模火災が連続発生し、さらに49人が死亡。2017年だけで計115人がポルトガルの山火事で命を落とした。EU加盟国の年間山火事死者数としては異例の数字だった。

調査委員会は原因として、ユーカリの単一植林、過疎化による下草管理の放棄、消防組織の人員不足、避難経路の不備を挙げた。

その後の対策——変わったこと、変わらないこと

2017年の大火災後、ポルトガル政府はいくつかの対策を打った。

新規ユーカリ植林の制限: 2017年の法改正で、新たなユーカリの植林には許可が必要になった。ただし、既存のユーカリ林の伐採後の再植林は規制対象外。つまり、現在のユーカリ面積を減らす効果は薄い。

下草刈りの義務化: 建物や道路から50メートル以内の植生を管理する義務が土地所有者に課された。違反者には罰金。しかし、過疎地では土地の所有者が不明だったり海外に移住していたりするケースが多く、実効性に課題がある。

消防体制の強化: 夏季の消防人員と航空機の配備を増強。ポルトガル空軍がカナダ製の消火飛行艇を追加配備した。

在来種への植え替え: 一部の自治体では、ユーカリを伐採してコルク樫や栗の木に植え替えるプロジェクトが進んでいる。ただし、コルク樫は木材として使えるまで25年以上かかるため、農家にとってはユーカリの方が経済的に魅力的。

在住者として知っておくべきこと

ポルトガルの山火事シーズンは6月〜10月。特に7〜8月は高温・乾燥・強風の三拍子が揃い、年間火災件数の大半がこの時期に集中する。

内陸部に住む場合、避難計画を確認しておくのは必須だ。Proteção Civil(市民保護庁)のアプリで火災情報がリアルタイム配信される。リスボンやポルトの都市部が直接被害を受けることはまれだが、煙の影響で空気質が悪化することはある。

毎年夏になると「今年は何ヘクタール燃えた」というニュースがポルトガルの日常になる。住んでいると、これが天気予報と同じ感覚で流れてくることに気づく。ポルトガル人にとって山火事は「異常事態」ではなく、国土の構造が作り出した「年中行事」になっている。その構造の中心に、60年前に植えられたオーストラリアの木がある。

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