ポルトガルでフリーランスとして働く——Recibo Verde(緑のレシート)の仕組みと税務
ポルトガルでフリーランスとして合法的に働くための開業届、Recibo Verde(電子請求書)の発行方法、社会保険料、税率、確定申告の実務を解説。
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ポルトガルでフリーランスとして働く日本人が増えている。デジタルノマドビザ(D8ビザ)の整備、リスボンのコワーキングスペースの充実、そして生活コストの相対的な安さが理由だ。ただし「働く」以上、税務の仕組みを理解していないと後から痛い目に遭う。
開業届(Atividade Independente)
ポルトガルでフリーランスとして収入を得るには、まず税務署(Finanças)で個人事業の開業届を出す。すでにNIF(納税者番号)を持っていれば、ポータルサイト「Portal das Finanças」からオンラインで完結する。
登録時に選ぶのは以下の項目。
- CAE(経済活動コード): 自分の業種に対応するコードを選択する。ITコンサルタント、翻訳、デザインなど業種ごとにコードが異なる
- 課税方式: 簡易課税(Regime Simplificado)か通常課税(Contabilidade Organizada)かを選ぶ。年間売上EUR 200,000以下なら簡易課税が使える
- IVA(付加価値税)の免除: 年間売上EUR 14,500以下の場合、IVA(23%)が免除される。この免除枠に入るかどうかで手取りが大きく変わる
Recibo Verde(緑のレシート)とは
Recibo Verdeは、フリーランスがクライアントに発行する電子請求書のこと。かつては緑色の紙の複写式レシートだったことから、デジタル化された今でもこの名前で呼ばれている。
発行はPortal das Finanças上で行う。入力するのはクライアント名、NIF(ポルトガル国内の場合)、金額、サービス内容、IVAの有無。発行すると税務署にリアルタイムで記録される。
つまり、Recibo Verdeを発行した時点で税務署に売上が報告される。日本の確定申告のように「年に1回まとめて報告」ではなく、取引のたびに申告しているようなものだ。
税率と社会保険料
所得税(IRS)
フリーランスの所得税は、簡易課税の場合「売上の75%を課税所得とみなす」方式になる(サービス業の場合)。つまり25%が経費として自動控除される。実際の経費が25%以下でもこの計算になるため、経費が少ない業種には有利。
課税所得に対する税率は累進制。
| 課税所得 | 税率 |
|---|---|
| 〜EUR 7,703 | 13.25% |
| EUR 7,703〜11,623 | 18% |
| EUR 11,623〜16,472 | 23% |
| EUR 16,472〜21,321 | 26% |
| EUR 21,321〜27,146 | 32.75% |
| EUR 27,146〜39,791 | 37% |
| EUR 39,791〜51,997 | 43.5% |
| EUR 51,997〜81,199 | 45% |
| EUR 81,199〜 | 48% |
社会保険料(Segurança Social)
フリーランスは開業後最初の12ヶ月間は社会保険料が免除される。2年目以降は、直近の四半期の売上を基に毎月の保険料が計算される。
料率は課税所得の21.4%。ただし、計算ベースは売上の70%なので、実質的な負担は売上の約15%になる。
例えば月の売上がEUR 3,000の場合:EUR 3,000 × 70% × 21.4% = EUR 449.4(約71,900円)/月。
IVA(付加価値税)の実務
年間売上がEUR 14,500を超えると、Recibo VerdeにIVA(23%)を上乗せして発行する義務が生じる。クライアントがEU圏外(日本の企業など)の場合はリバースチャージが適用されIVAは不要だが、ポルトガル国内のクライアントに請求する場合は23%を加算する。
四半期ごとにIVAの申告・納付が必要。受け取ったIVAから、事業経費で支払ったIVAを差し引いた差額を納付する。
確定申告(Declaração de IRS)
毎年4月1日〜6月30日が確定申告期間。Portal das FinançasのIRS申告フォームに、年間の売上と経費を入力する。簡易課税の場合は自動的に75%が課税所得として計算されるため、経費の証明は不要。
注意すべきは、ポルトガルの確定申告は「個人」単位ではなく「世帯」単位でも申告できること。配偶者と合算申告すると、累進税率の適用が変わって有利になるケースがある。
実際のところ、手取りはいくらか
月EUR 3,000の売上(年EUR 36,000)のフリーランスの場合を試算する。
| 項目 | 年額 |
|---|---|
| 売上 | EUR 36,000(約576万円) |
| 課税所得(75%) | EUR 27,000 |
| 所得税(累進計算) | 約EUR 5,800(約92.8万円) |
| 社会保険料 | 約EUR 5,400(約86.4万円) |
| 手取り | 約EUR 24,800(約397万円) |
売上の約69%が手取りになる計算。日本のフリーランスの手取り率(65〜70%程度)とほぼ同水準。ただしポルトガルの生活コストは東京より低いため、実質的な可処分所得の「使い出」は大きい。
リスボン中心部の1LDKがEUR 900〜1,200/月。食費は自炊中心ならEUR 250〜350/月。手取りEUR 2,000/月あれば、質素ではあるが生活は成り立つ。
ポルトガルのフリーランス税務は、仕組みを理解すれば複雑ではない。Recibo Verdeという「リアルタイム申告」の文化に最初は戸惑うかもしれないが、年末にまとめて帳簿を整理する日本式より、むしろ楽だと感じる人もいる。