ポルトガルの最低賃金——月870EURの国で暮らすということ
ポルトガルの最低賃金は月€870。西欧で最も低い水準だが、物価もそれなりに安いのか。賃金と生活コストの関係、在住者が肌で感じる経済の実態を解説。
この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。
ポルトガルの最低賃金(salário mínimo nacional)は2025年時点で月€870(約139,200円)。14ヶ月分支給される(夏と冬にボーナスとして追加1ヶ月分ずつ支給される制度があるため、年間では€870×14=€12,180)。この金額を聞いて「安い」と思うかもしれないが、ポルトガルの労働者の約25%がこの最低賃金で働いているとされる。
西欧の中での位置
EU内の最低賃金を比較すると、ポルトガルの位置が見えてくる。
ドイツ: 時給€12.82(月額換算で約€2,200)。フランス: 月€1,766。スペイン: 月€1,134。ポルトガル: 月€870。
西欧(EU15カ国)の中ではポルトガルが最も低い。スペインの約77%、フランスの約49%。しかし東欧と比べれば、ブルガリア(月€477)やルーマニア(月€637)よりは高い。
ポルトガルは地理的には西欧だが、経済的には南欧・東欧との中間に位置している。
家賃との関係
最低賃金€870で生活できるのか。最大の問題は家賃だ。
リスボン中心部の1ベッドルームのアパートメントは月€900〜1,500(約144,000〜240,000円)。最低賃金の全額を家賃に使っても足りない計算になる。
これがポルトガルの住宅問題の核心だ。2015年以降、外国人移住者・デジタルノマド・観光客向け短期賃貸(Alojamento Local)の増加で、リスボンとポルトの家賃は約2倍になった。しかし賃金はそれほど上がっていない。
地方に出れば家賃は下がる。コインブラやレイリア、内陸部なら月€400〜600(約64,000〜96,000円)で1ベッドルームが借りられる。地方なら最低賃金でも家賃を払った後に生活費が残る。
生活コストの実態
家賃以外のコストを見ると、ポルトガルの物価は西欧の中では確かに安い。
- カフェのエスプレッソ: €0.70〜1.00(約112〜160円)
- ランチの日替わり定食(Prato do Dia): €7〜10(約1,120〜1,600円)
- スーパーの食料品(2人暮らし/月): €250〜350(約40,000〜56,000円)
- 公共交通(リスボン月定期): €40(約6,400円)
- 携帯電話(SIM): €10〜20/月(約1,600〜3,200円)
外食が安い点は在住者にとって大きい。Prato do Diaは肉or魚のメイン、スープ、パン、デザート、飲み物がセットで€7〜10。東京で同じ内容の定食を食べたら1,200〜1,500円はするだろう。
ポルトガル人はどう暮らしているのか
最低賃金€870で一人暮らしをするのは、リスボンでは不可能に近い。実際には以下のような戦略を取っている人が多い。
実家暮らし: 30代でも実家に住み続けるケースが多い。2021年の統計では、25〜34歳のポルトガル人の約30%が親と同居している。
シェアハウス: リスボンやポルトの若い労働者は、3〜5人でアパートメントをシェアして一人あたり€300〜500に抑えている。
副業(Trabalho extra): ウーバー、Glovo(配達サービス)、週末のカフェバイトなど、複数の収入源を持つ人が増えている。
外国人在住者にとっての意味
日本からポルトガルに移住する場合、現地の雇用市場で働くと「ポルトガルの賃金、ポルトガルの物価」で生活することになる。リモートワークで日本やアメリカの企業から収入を得ている人は「先進国の賃金、ポルトガルの物価」で暮らせるため、生活の質が全く異なる。
この格差がポルトガル社会に摩擦を生んでいる。外国人リモートワーカーが€2,000〜5,000の収入でリスボンの物件を借り上げ、€870で暮らすポルトガル人が住む場所を失う。この構造的問題は、ポルトガルの政治で最もホットなテーマの一つだ。
ポルトガルの「安さ」は、ポルトガル人の「安い賃金」と表裏一体だ。そのことを理解した上でこの国で暮らすかどうかは、移住を検討する人が考えるべき問いの一つだろう。