ポルトガルの公立病院の使い方——無料だけど待ち時間が長い医療の現実
ポルトガルの公的医療制度SNSは原則無料だが、初診まで数ヶ月、手術は最長16ヶ月待ち。公立病院の受診方法、緊急時の対応、民間保険の使い分けを解説。
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ポルトガルの公的医療制度SNS(Serviço Nacional de Saúde)は、在住者なら原則無料で利用できる。ただし、2025年半ばの時点で約97万5,000人が初回の専門医受診を待っていた。そのうち半数以上が、法定の待機期間を超過している。「無料」の代償は「待ち時間」だ。
SNSの仕組み
ポルトガルの医療は、まずCentro de Saúde(ヘルスセンター)にかかるゲートキーパー方式を採用している。日本のように直接専門医を受診することはできない。
受診の流れ:
- 居住地のCentro de Saúdeに登録し、家庭医(Médico de Família)を割り当ててもらう
- 体調不良時は家庭医に予約を取り、診察を受ける
- 専門的な検査・治療が必要な場合、家庭医から病院の専門医へ紹介状が出る
- 紹介状をもとに、病院側から受診日の連絡が来る
問題はステップ4の待ち時間だ。紹介状が出てから専門医に会えるまで数ヶ月かかることは珍しくない。
待ち時間の実態
数字を見ると、状況の深刻さがわかる。
専門医の初回受診: 2025年半ばの時点で、約97万5,000人が待機中。法定の対応期限を超過しているケースが半数以上。
手術待ち: 約26万4,000人が手術を待っている。アソーレス自治区では平均待ち日数が488日(約16ヶ月)に達し、法定上限の270日を大幅に超過。複数の地域で、予定手術の30%以上が臨床的に推奨される期間内に実施されていない。
救急外来: 2025年12月時点で、ポルトガル北部の病院では「緊急(urgente)」のトリアージを受けた患者でも初回診察まで12時間以上の待ちが報告されている。「非常に緊急(muito urgente)」でも約12時間——推奨される10分とはかけ離れた数字だ。
緊急時の対応
生命に関わる緊急事態(事故、心筋梗塞、脳卒中など)の場合は、112(ポルトガルの緊急通報番号)に電話する。救急車が派遣され、最寄りの病院の緊急外来(Urgências)に搬送される。緊急度の高いケースは優先的に対応されるため、待ち時間の問題はこの場面では比較的少ない。
緊急性の低い体調不良については、SNS 24(808 24 24 24)という電話トリアージサービスがある。看護師が電話で症状を評価し、自宅療養・Centro de Saúde受診・病院受診のいずれかを案内する。ただしこちらも待ち時間がある。2025年1月には平均応答時間が15.2分に達した。
民間保険(Seguro de Saúde)の選択肢
待ち時間を回避する手段として、多くの在住外国人が民間の健康保険に加入している。代表的な保険会社はMulticare、Médis、AdvanceCareなど。
月額の保険料はEUR 30〜100程度(約4,800〜16,000円)で、年齢・補償範囲によって変わる。民間保険があれば、Hospital da Luz、Hospital CUF、Hospital dos Lusíadasといった民間病院ネットワークを利用でき、専門医への予約が数日〜数週間で取れる。
公立と民間の使い分け
多くの在住者は「SNS+民間保険」の二重構造で医療にアクセスしている。SNSの登録を維持しつつ(無料なので)、日常的な診察や専門医受診は民間を使う、というパターンだ。
SNSが機能する場面もある。慢性疾患の長期管理、処方薬の補助(SNS経由の処方は薬代が大幅に安くなる)、緊急手術——こうしたケースではSNSの制度的な保護が効いてくる。
「無料で質の高い医療」と「長い待ち時間」は、ポルトガルの医療制度の表裏一体の特徴だ。どちらか一方だけを見て判断すると、実態を見誤ることになる。