obras(工事)が終わらない国|ポルトガルのリノベーション事情と忍耐の技術
ポルトガルで「obras」と言えば工事。賃貸でも購入でもリノベーションに直面する確率が高く、工期は予定の2〜3倍に延びるのが通常。この構造の背景と対処法。
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ポルトガルの住宅の約70%は1990年以前に建設されている。リスボンの中心部に限れば、築100年以上の建物が珍しくない。どこかしらが工事中(em obras)で、建物の外壁に足場が組まれている光景はリスボンの日常風景の一部だ。
在住者が「obras」という単語を覚えるのは、ポルトガル語学習の初期段階だ。なぜなら、自分の住む建物か、隣の建物か、通りの向かいの建物が、ほぼ常に工事しているからだ。
なぜリノベーションが多いのか
ポルトガルの住宅市場には「古い建物を改修して使う」文化が根強い。新築よりもリノベーション物件の方が件数として多い理由はいくつかある。
第一に、都市部の土地が足りない。リスボンの丘陵地形では新しい土地を開発する余地が少なく、既存の建物をリノベーションして使うしかない。
第二に、ゴールデンビザ時代(2012〜2023年)の不動産投資ブームで、老朽化した建物を購入→リノベーション→Airbnbという投資パターンが大量に生まれた。
第三に、2020年代に入って政府がエネルギー効率改善のための補助金を出しており、断熱工事や窓の交換が促進されている。
工期は2〜3倍に延びる
ポルトガルの建設業界の最大の課題は人手不足だ。熟練した職人の多くがフランスやドイツに流出しており、国内の建設労働者の賃金は上昇しているものの、西欧諸国の水準には追いついていない。
結果として、業者は複数の現場を掛け持ちする。「月曜に来ると言ったのに木曜に来た」「3ヶ月で終わると言ったのに8ヶ月かかった」は標準的な体験だ。
リノベーションの見積もりを取る際は、業者が提示した工期に2〜3倍の係数をかけて計画を立てるのが現実的だ。
費用の目安
リスボンでのリノベーション費用の目安は以下の通り。
- キッチン全面改修: EUR8,000〜15,000(約128万〜240万円)
- バスルーム改修: EUR5,000〜10,000(約80万〜160万円)
- 1ベッドルームのフルリノベーション(配管・電気・内装): EUR30,000〜60,000(約480万〜960万円)
- 外壁の修復・塗装: EUR10,000〜25,000(約160万〜400万円)
見積もりは最低3社から取ること。価格差が50%以上開くことも珍しくない。安すぎる見積もりは、途中で追加費用を請求されるリスクが高い。
賃貸の場合の注意点
賃貸物件でも、入居前のリノベーションが完了していないケースがある。「あと2週間で終わる」と言われて契約したが、実際には2ヶ月かかった——というトラブルは在住者の間でよく聞く話だ。
賃貸契約書にリノベーション完了の条件と期日を明記し、遅延した場合の家賃発生日を交渉するのが自衛策だ。ポルトガルの賃貸法(Lei do Arrendamento Urbano)では、契約書の記載事項が法的に有効とされるため、口頭の約束は避ける。
騒音との共存
リノベーション工事の騒音は、ポルトガルの住宅事情に付随する避けられないストレス要因だ。法律上、工事可能な時間帯は平日8:00〜20:00、土曜9:00〜13:00。日曜・祝日の工事は禁止されている。
だが、この規制が厳格に守られるとは限らない。隣の部屋で朝7時半からドリルが響くことがある。Câmara Municipal(市役所)に苦情を出すことはできるが、対応には時間がかかる。
耳栓とノイズキャンセリングヘッドホンは、ポルトガル生活における実用品だ。