6月のリスボンを支配するイワシの煙——サントス・ポプラーレスと庶民の祭り
毎年6月のリスボン最大の祭りSantos Populares(サントス・ポプラーレス)を解説。イワシの炭火焼きが街を埋め尽くす理由、アルファマの夜通しパーティー、マンジェリコの鉢植え、在住日本人の楽しみ方まで。
この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。
毎年6月12日の夜、リスボンの旧市街アルファマ地区に立つと、路地の両側から炭火でイワシを焼く煙が立ちのぼり、視界が白くなる。年間約13トンのイワシが、この1晩だけで消費されるという推計もある。Santo António(聖アントニオ)の前夜祭、Santos Populares(サントス・ポプラーレス)だ。
聖アントニオとリスボン
Santo Antónioはリスボン生まれの聖人で、ポルトガルで最も人気のある守護聖人だ。彼の命日6月13日は「Dia de Santo António」として祝われ、前夜祭の6月12日が実質的なメインイベントになる。
リスボン市はこの日を市の祝日としており、市役所主催のパレード「Marchas Populares」がアヴェニーダ・ダ・リベルダーデ(Avenida da Liberdade)を行進する。各地区(bairro)がチームを組み、衣装と振り付けを競い合う。
イワシの構造
なぜイワシなのか。6月はポルトガルのイワシ漁の最盛期にあたる。脂が乗り、最も美味い時期だ。かつて庶民の安い食材だったイワシが、祭りの主役に収まったのは自然な流れだった。
| 祭り期間中の価格 | 通常価格 |
|---|---|
| イワシ1皿(4〜6尾) EUR 5〜10 | EUR 3〜5 |
| パン(broa) EUR 1〜2 | EUR 0.50〜1 |
| ビール(fino) EUR 2〜4 | EUR 1〜2 |
祭り価格は通常の1.5〜2倍になるが、それでも1人EUR 10〜15で食べて飲んで楽しめる。ヨーロッパの祭りとしては破格の安さだ。
アルファマの夜
6月12日の夜、アルファマ地区は文字通り「歩けない」ほどの人出になる。狭い路地にテーブルと椅子が並び、住民が自宅の前でイワシを焼き、通行人に売る。即席のバーが路地の角に出現し、ファド(fado)の生演奏が聞こえる。
午後10時頃から人が集まり始め、夜通し続く。メトロとバスは深夜も特別運行する。朝5時頃に人が引き始め、日が昇る頃にはイワシの残骸と紙くずが路上を覆っている。
マンジェリコ(Manjerico)
祭りのもう一つの象徴が、小さなバジルの鉢植え「manjerico」だ。紙の花と恋のメッセージ(quadra)を添えて恋人や友人に贈る。聖アントニオが「恋愛の守護聖人」でもあることに由来する。
街角でEUR 2〜5で売られるこの鉢植えを、6月のリスボンでは誰もが手に持っている。バジルの香りとイワシの煙が混ざった匂いが、6月のリスボンの匂いだ。
在住日本人の楽しみ方
- アルファマに行く: 6月12日の夜がメイン。19時頃に到着して場所を確保するのがベスト
- グラサ(Graça)地区: アルファマより空いていて、展望台(Miradouro da Graça)からの夜景が見事
- イワシは手で食べる: パンの上にイワシを置き、手で身をほぐして食べるのが正式な食べ方
- 翌日6月13日のパレード: Avenida da Liberdadeで20時頃開始。無料で観覧可
1年でリスボンが最も「リスボンらしく」なる夜だ。この祭りのために6月に一時帰国を避ける在住者もいるほど、中毒性がある。