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トラム28号線はリスボンの象徴か観光公害か

リスボンの名物トラム28号線は観光客で常に満員。地元住民の足としての機能が失われつつある現状と、観光と日常の摩擦を描きます。

2026-05-03
トラムリスボン観光交通

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リスボンのトラム28号線に乗ろうとして、3本見送ったことがあります。全て観光客で満員で、物理的に乗れなかった。地元住民にとって、28号線はもう「自分たちの交通手段」ではなくなりつつあります。

28号線とは何か

Eléctrico 28(トラム28号線)は、リスボンの旧市街を東西に横断する路面電車です。マルティン・モニス広場からアルファマ、バイシャ、シアード、エストレラを経由してカンポ・デ・オウリケまで、約7kmを約40分で走ります。

1930年代から運行している黄色い木製車両は、リスボンの象徴としてポストカードやガイドブックの表紙に使われてきました。急勾配の坂道を軋みながら登り、狭い路地で建物の壁すれすれを通過する——その体験自体が観光アトラクションになっています。

住民が乗れない問題

問題は、観光客の利用が増えすぎたことです。

28号線の車両は1両あたりの定員が約20人(立ち客含む)。夏のピークシーズンには、始発のマルティン・モニスの時点で満員になり、途中の停留所では乗車できないことが頻繁にあります。

地元住民の反応は複雑です。観光はリスボンの経済を支えていますが、自分が毎日使う交通手段が使えないのはストレスです。「28番は観光バスだ」と皮肉を言う住民もいます。

スリの温床

もうひとつの問題はスリです。満員のトラム内は、プロのスリにとって最適な環境です。リスボン警察は28号線を重点的にパトロールしていますが、毎年大量の被害が報告されています。

在住者の対策:

  • バッグは体の前で抱える
  • スマートフォンをポケットに入れない
  • できれば始発で座席を確保する
  • 混雑がひどい場合は代替バス(737番等)を使う

Carrisの対策

運行会社Carris(リスボンの公共交通事業者)は、いくつかの対策を実施・検討しています。

  • 運行本数の増加:ピーク時の運行間隔を8〜10分に短縮
  • 観光客向け別料金:Viva Viagem(ICカード)利用者はEUR 1.65(約264円)、車内現金購入はEUR 3.00(約480円)。地元住民のIC利用を促進する価格差
  • 新型車両の導入検討:ただし、28号線の急カーブ・急勾配に対応できる車両のサイズに制約がある

在住者の使い方

在住者が28号線を実用的に使うコツがあります。

  • 朝8時前か夜20時以降:観光客が少ない時間帯
  • カンポ・デ・オウリケ側から乗車:始発のマルティン・モニスよりも空いている
  • 短区間だけ利用:エストレラからシアードまでの数駅だけ、など

あるいは「28番に乗るのはやめて歩く」という在住者も多い。リスボンは坂が多いですが、アルファマからシアードまで歩いても20分程度です。

トラム28号線は、観光がもたらす恩恵と摩擦の縮図です。黄色い車両が坂道を登る姿は美しい。でもその中に地元住民の席がなくなっているなら、それは「象徴」ではなく「展示物」になっているのかもしれません。

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