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ポルトガルの水不足——南欧の旱魃リスクと在住者への影響

ポルトガルは近年、深刻な水不足に直面している。ダムの貯水率低下、農業への影響、日常生活での節水規制など、南欧の気候変動リスクと在住者が知っておくべき実態を解説。

2026-05-05
水不足旱魃気候変動環境ポルトガル

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2023年、ポルトガル南部のダムの貯水率が30%を下回った。アルガルヴェ地方では自治体が庭への散水を禁止し、プールへの給水を制限した。「ヨーロッパの中で最も温暖で暮らしやすい国」として移住先に選ばれるポルトガルだが、その温暖さの裏側に水の問題がある。

ポルトガルの水事情

ポルトガルの降水量は北と南で極端に異なる。北部(ポルト周辺)の年間降水量は約1,200mmで、東京(約1,500mm)に近い。しかし南部(アルガルヴェ、アレンテージョ)は400〜500mmで、日本の瀬戸内海沿岸よりも少ない。

しかもその降水量の大半が10月〜3月の冬季に集中する。夏(6〜9月)はほぼ雨が降らない。4ヶ月間の乾季がある国で暮らすという感覚は、日本人には想像しにくいかもしれない。

気候変動の影響

問題は降水量の総量だけではない。ポルトガルでは降水パターンが変化しており、冬季の降水が「少なくなる年」と「集中豪雨で一気に降る年」に二極化している。ダムに水を溜められない年が増え、翌年の夏に深刻な水不足になるサイクルが頻発している。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測では、南欧の降水量は今世紀末までに20〜30%減少する可能性がある。ポルトガルは欧州の中でも気候変動の影響を最も強く受ける国の一つとされている。

農業への打撃

ポルトガルの農業はGDPの約2%だが、地方経済では大きな比重を占める。特にアレンテージョのオリーブ、アルガルヴェの柑橘類、ドウロ地方のワイン用ブドウは水なしには生産できない。

灌漑農業への依存度が高いアレンテージョでは、アルキーバ・ダム(Barragem de Alqueva、ヨーロッパ最大級の人工湖)が水供給の要だ。しかしこのダムの水位も近年低下傾向にあり、灌漑用水の配分制限が検討されている。

日常生活への影響

在住者として直面する水関連の問題は以下の通り。

水道料金の上昇: 水道料金は自治体ごとに異なるが、リスボンで月€15〜30(約2,400〜4,800円)程度。南部の自治体では水不足時に累進課金の急勾配化(使えば使うほど単価が跳ね上がる)が適用されることがある。

節水規制: 旱魃が深刻化すると、自治体が節水措置を発令する。庭への散水禁止、洗車の制限、プールの新規給水禁止など。2023年にはアルガルヴェの一部自治体でこれらの措置が実施された。

水圧の低下: 夏季の水需要ピーク時に、一部地域で水圧が低下する。特に丘陵地の住宅や古い配管の建物では、シャワーの水量が著しく落ちることがある。

水質: ポルトガルの水道水は飲用可能(EU基準を満たしている)だが、南部では石灰分が多く、味や肌への影響を気にしてフィルター浄水器やミネラルウォーターを使う人も多い。

対策として進んでいること

海水淡水化: アルガルヴェに海水淡水化プラントの建設が計画されている。2027年頃の稼働を目指しているが、エネルギーコストが高いため水道料金への転嫁が議論になっている。

水の再利用: 処理済み下水を灌漑用水として再利用する動きが広がっている。ゴルフコースや公園の灌漑には再利用水が使われ始めている。

個人レベルの対策: 雨水タンクの設置、節水型シャワーヘッド、乾燥に強い植物(在来種のラベンダー、ローズマリー等)への植え替えが推奨されている。

移住先の選択と水リスク

ポルトガルへの移住を検討する際、気候の温暖さは大きな魅力だが、その温暖さと水不足はセットだという認識が必要だ。特にアルガルヴェやアレンテージョ南部を検討している場合、水リスクは生活の質に直結する。

北部(ポルト周辺、ミーニョ地方)を選べば水不足のリスクは大幅に下がるが、冬の雨が多く、気温も南部ほど高くない。「温暖で水も十分」という場所はポルトガル国内にはほぼ存在しない。何を優先するかのトレードオフだ。

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