シンガポールで車を買う——COEが車の値段を2倍以上にする仕組み
シンガポールで車を所有するには、本体価格のほかに「COE(車両登録証)」が必要。その価格が100万円を超えることも珍しくない。車を持つ意味とコスト構造を解説します。
この記事の日本円換算は、1SGD≒115円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨の金額を基準にしてください。
シンガポールで「車を買う」というのは、日本とは全く異なる行為だ。
まず車本体を買う前に、「COE(Certificate of Entitlement=車両登録証)」をオークションで競り落とす必要がある。このCOEが高騰すると、普通の乗用車を購入するために600万〜900万円以上(推定)が必要になることもある。
車を持つことが「贅沢」を超えて「ステータスシンボル」になっている背景には、この制度がある。
COEとは何か
COEとは、シンガポールで自動車を10年間登録・使用する権利証だ。政府が総台数を制限するために、定期的にオークションで数量限定で販売する。需給によって価格が変動し、需要が多い時期は1枚100,000SGD(約1,150万円)を超えることもある。
2024年頃のCOE価格は車種区分(排気量)によって異なるが、一般的な乗用車のカテゴリで高値が続いていた(具体的な時点の価格は変動するため、最新は公式サイトで確認のこと)。
10年後には更新か廃車になる。つまりCOEは「10年間だけ使える権利」を高額で買う仕組みだ。
なぜこんな仕組みが存在するか
シンガポールは国土が約700平方キロメートルと小さい(東京23区の約1.2倍)。道路容量に限界がある中で、自動車の台数を無制限に増やすことはできない。
COEは意図的に車の保有コストを上げることで、台数を抑制する政策手段だ。ERP(電子道路課金)と組み合わせることで、「持てるが使いにくい」環境を作っている。
「持ちたければ払え、払えないなら公共交通を使え」というシンプルなメッセージだ。
駐在員と車の関係
会社が車を提供する駐在員と、自費で購入する人では、シンガポールでの車との関係が全く変わる。
会社負担で社用車・カーアロワンスがある場合、週末の買い出しやマレーシアへのドライブが現実的だ。一方、自費で車を持つ一般のシンガポール人は、公共交通で生活しながら週末だけGrabを使うという選択をする人が多い。
日本人駐在員の中には「シンガポールで初めて車なし生活をしてみたら、不便じゃなかった」と言う人も少なくない。
車なし生活の質
シンガポールの公共交通は、MRT・バス・Grabを組み合わせれば、生活の大部分がカバーできる。ホーカーセンターへの買い出し、子どもの送迎、週末の外出——特定のエリアを除けば車なしで成立する。
週末にマレーシア・ジョホールバルへドライブしたい、郊外の大型ショッピングセンターへ行きたい、という場合は不便を感じる。そのために毎月数万円のカーアロワンス相当を払うかどうか、という判断になる。
「車は必要か」ではなく「車に払えるコストと得られる利便性が釣り合うか」という問い。シンガポールの車事情は、都市生活の優先順位を問い直す機会になる。