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文化・社会

シンガポールのエクスパット特権は存在するか——外国人と地元民の見えない格差

EP保有の外国人駐在員とシンガポール市民の間にある給与格差・住宅格差・社会的摩擦。データと現場の声から「エクスパット特権」の実態を読み解く。

2026-04-13
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この記事の日本円換算は、1SGD≒115円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨の金額を基準にしてください。

「外国人は高い給料をもらって、住宅手当付きのコンドミニアムに住んでいる。ローカルは同じ仕事でも給料が低い」——シンガポールのSNSには定期的にこの種の不満が流れる。

実態はどうか。

EP保有者の給与水準

Employment Pass(EP)の最低月給は、2025年時点で5,000SGD(約57万5,000円)だ(金融業は5,500SGD)。これは審査通過のための最低ラインであり、実際に発給されるEP保有者の平均は7,000〜10,000SGD台が多いとされる。

一方、シンガポール市民の大卒初任給の中央値は月約3,500〜4,000SGD(約40〜46万円)だ。経験年数が同じでも、EP保有者との給与差は大きい場合がある。

ただし、この比較には構造的な偏りがある。EPを持って来るのは多国籍企業が本社採用した人材や、高度なスキルを持つ専門職が多い。「シンガポール人の平均」対「EP保有者の平均」は、スキルセットが異なる集団の比較になる。

住宅コストの非対称性

日本企業の駐在員に多いのが、会社負担の住宅手当でオーチャード・タングリン・リバーバレーエリアのコンドミニアムに住むパターンだ。月5,000〜10,000SGD(約57〜115万円)の賃料を会社が払う。

シンガポール市民の80%はHDB(公共住宅)に住んでいる。HDBの賃貸市場価格は1〜2室で月1,500〜3,000SGD(約17〜35万円)程度で、コンドミニアムとは大きく異なる。

この「住む場所の格差」が、エクスパット特権の最も可視化されたかたちだ。ロボットクリーナーが入るコンドミニアムのプールサイドと、3世代が1軒のHDBに暮らす光景——同じ街に共存している。

政府の対応:COMPASS評価システム

2023年に導入されたEP申請の新審査基準「COMPASS(Complementarity Assessment Framework)」は、この問題への政策的な対応だ。

企業がEPを申請する際、単に個人のスキル・給与だけでなく、企業全体のシンガポール市民雇用比率、外国人国籍の多様性なども評価される。特定国籍に偏った採用をしている企業は審査で不利になる。

制度の狙いは「優秀な外国人は歓迎するが、シンガポール人を代替するための外国人採用は抑制する」というバランスの実現だ。

「特権」は存在するが、それだけではない

エクスパット特権が完全に存在しないとは言えない。会社負担の手当・高額保険・海外旅行費用——これらは一般のシンガポール市民には縁遠い。

一方で、エクスパットが直面するコストもある。子どもをインターナショナルスクールに通わせると年間40,000〜50,000SGD(約460〜575万円)が必要だ。それを自己負担するEP保有者も少なくない。永住権がなければHDBを買えず、コンドミニアム購入にも追加税(ABSD60%)がかかる。社会的なネットワークの構築もゼロからだ。

シンガポールの階層構造は、「外国人かどうか」より「どのビザカテゴリかどうか」で分かれていると言った方が正確かもしれない。EP保有の駐在員、Sパス保有の中間技能職、WPの低技能労働者——それぞれに異なるルールと格差が存在している。

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