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シンガポールのフィンテック口座と従来の銀行、実際に何が違うのか

GXS・Trust・MariobankなどシンガポールのデジタルバンクとDBS・OCBCの違いを機能別に比較。「フィンテックが便利」がどの場面でどこまで本当か、従来銀行が必要になる場面を具体的に解説する。

2026-04-06
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この記事の日本円換算は、1SGD≒124円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(SGD)の金額を基準にしてください。

シンガポールでは2022年以降、MAS(金融管理局)からライセンスを取得したデジタルバンクが次々にサービスを開始した。GXS Bank、Trust Bank、Mariobank——名前は聞くが、DBS・OCBC・UOBといった従来の銀行と何が違って、何が同じなのか。整理してみる。

シンガポールのデジタルバンク一覧

MASが2020年にデジタルバンクライセンスを付与し、以下の銀行がサービスを開始している。

銀行名出資元ライセンス種別サービス開始
GXS BankGrab + Singtelデジタル・フルバンク2022年
Trust BankStandard Chartered + FairPrice Groupデジタル・フルバンク2022年
Mariobank (Green Link Digital Bank)Ant Group系ホールセール・デジタルバンク2022年
ANEXT BankAnt Group系ホールセール・デジタルバンク2022年

※2025年時点の情報に基づく。サービス内容は頻繁に更新されるため、最新情報は各銀行の公式サイトで確認を。

GXS BankとTrust Bankはリテール(個人向け)のフルバンクライセンス。Mariobank・ANEXTはホールセール(法人・中小企業向け)ライセンスで、個人向けサービスは限定的。

日本人在住者に関係があるのは主にGXS BankとTrust Bank。

GXS Bank——Grabとの統合が強み

GXS BankはGrabとSingtelの合弁。Grabアプリとの連携が最大の特徴。

できること:

  • 普通預金口座の開設(アプリ完結、支店訪問不要)
  • 高金利の預金(キャンペーン金利でSGD建て2%台の実績あり)
  • FlexiLoan(少額ローン、SGD 200〜SGD 5,000)
  • GrabPayとの連携

できないこと・制限:

  • クレジットカードの発行(2025年時点で未提供)
  • 住宅ローン
  • 投資商品(株式・債券等)
  • 小切手の発行
  • 預金保護はSGD 100,000まで(SDIC=Singapore Deposit Insurance Corporationの対象)

Grabを日常的に使っている人にはポイント還元や連携のメリットがあるが、「メインバンク」として使うには機能が足りない場面がある。

Trust Bank——FairPriceとの連携

Trust BankはStandard CharteredとNTUC FairPrice Group(シンガポール最大のスーパーマーケットチェーン)の合弁。

できること:

  • 普通預金口座(アプリ完結)
  • デビットカード(Visa)
  • FairPriceでの買い物でLinkpoints還元
  • 高金利の預金
  • 少額ローン

できないこと・制限:

  • クレジットカード(デビットカードのみ)
  • 住宅ローン
  • 投資商品
  • 小切手

FairPriceでの日常の買い物が多い人にはポイント面でメリットがある。ただしクレジットカードが作れないので、クレジットヒストリーの構築には使えない。

DBS・OCBC・UOBとの機能比較

従来の大手3行と並べると、デジタルバンクの「できること」と「できないこと」が明確になる。

機能DBS/OCBC/UOBGXS BankTrust Bank
普通預金
定期預金限定的限定的
デビットカード
クレジットカード××
住宅ローン××
車ローン××
投資(株式・ETF)××
保険商品××
小切手××
外貨口座限定的×
海外送金限定的限定的
ATM引き出し◯(自行ATM+提携)限定(提携ATM)限定(提携ATM)
支店窓口××
預金保護SGD 100,000SGD 100,000SGD 100,000

日本人がデジタルバンクだけで生活できるか

結論から言うと、デジタルバンクだけでは生活の全てはまかなえない。以下の場面で従来銀行が必要になる。

家賃の支払い

シンガポールの家賃支払いは銀行振込(GIRO=自動引き落としまたはPayNow)が主流。デジタルバンクでもPayNow送金は可能だが、GIROの設定はオーナーや不動産エージェントが従来銀行の口座を指定するケースが多い。

実態としては、家主が「DBS/OCBC/UOBの口座に振り込んでくれ」と言うパターンが大半。デジタルバンクからPayNowで送金すれば対応できる場面もあるが、GIROの自動引き落としを求められた場合は従来銀行の口座が要る。

クレジットヒストリーの構築

シンガポールでクレジットカードを作るには、通常は年収SGD 30,000以上(一部カードはSGD 120,000以上)が必要。そしてクレジットカードの利用実績がCredit Bureau Singapore(CBS)に記録され、将来のローン審査に影響する。

デジタルバンクはクレジットカードを発行しないため、デジタルバンクだけではクレジットヒストリーが構築されない。将来的に住宅ローンや車のローンを検討する可能性があるなら、従来銀行でクレジットカードを作っておく価値はある。

ローン申請

住宅ローン、車のリース・ローン、リノベーションローン——いずれもデジタルバンクでは対応していない。シンガポールで不動産を購入する場合(PRや市民の場合)、DBS・OCBC・UOBの住宅ローンが選択肢になる。

投資

DBS Vickers(DBS系のネット証券)やiOCBC(OCBC系)を使ってシンガポール株やETFに投資する場合、従来銀行の口座が連携基盤になる。デジタルバンクの口座からは直接投資口座に紐づけられないケースが多い。

じゃあデジタルバンクは何に使うのか

デジタルバンクが従来銀行より優れている場面は限られるが、明確にある。

1. サブ口座としての高金利預金: GXS BankやTrust Bankはキャンペーン金利で従来銀行より高い預金金利を提示することがある。メインの給与受取はDBS/OCBC、余剰資金をデジタルバンクに置く——という使い方は合理的。

2. 日常決済のポイント還元: Grab利用が多い人はGXS Bank、FairPriceでの買い物が多い人はTrust Bank。特定のエコシステムに乗っかることでポイント還元を最大化できる。

3. 口座開設のハードルの低さ: 従来銀行は外国人の口座開設に給与証明・EP/Sパスの提示等を求めるケースがあるが、デジタルバンクはアプリ完結で開設できる場合が多い(ただしSingPass認証が必要=シンガポールの在留資格は必要)。

日本人在住者の現実的な使い方

メインバンク(給与受取・家賃・クレカ): DBS / OCBC / UOBのいずれか

サブバンク(高金利預金・ポイント): GXS Bank / Trust Bank

海外送金: Wise(デジタルバンクでも従来銀行でもない別枠。送金手数料・為替レートの優位性が高い)

「フィンテックが便利」は事実だが、それは「メインバンクの代替」ではなく「メインバンクの補完」という位置づけ。従来銀行のクレカ・ローン・投資機能は当面デジタルバンクでは代替できない。

逆に言えば、デジタルバンクは「持っていて損がない」存在。口座維持手数料がなく、最低預入額もゼロまたは低額のものが多い。従来銀行をメインに据えた上で、ポイント還元や高金利の恩恵を受けるサブ口座として活用するのが、今のところ最も現実的な運用方法になる。

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