外国人労働者の寮——シンガポールの「見えない居住空間」を知る
シンガポールには30万人以上の外国人建設・製造業労働者が専用の寮に居住している。2020年のコロナ集団感染で注目されたその実態と、都市の裏側で機能する居住構造を整理する。
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シンガポールの建物を建てている人たちは、どこに住んでいるのか。
MRTや高層コンドミニアムを建設している作業員、道路の補修をしている工事作業員——彼らはシンガポール人でも、高収入の外国人エクスパットでもない。Work Permit(就労許可証)を持つバングラデシュ、インド、中国などからの出稼ぎ労働者で、数十万人規模がシンガポールに存在する。
そしてその多くは、一般の住宅地から離れた専用の「Foreign Worker Dormitory(外国人労働者寮)」で集団生活を送っている。
寮の規模と構造
大規模な寮施設の一つ、チョアチュカンの「Tuas South Dormitory」などは、数千人から1万人超の労働者を収容する大型施設だ。居室・食堂・商店・礼拝施設・医療クリニックを備え、一つの「街」のような機能を持つ。
政府と民間業者が協力して運営し、入居する労働者の家賃は雇用主が負担するケースが多い。
2020年のコロナ感染と寮問題
2020年4月、シンガポールが新型コロナウイルスの市中感染をほぼ抑え込んでいた時期に、外国人労働者寮での爆発的な集団感染が発生した。密集した居住環境が感染の拡大を助長し、当時シンガポール全体の感染者数の大半が寮由来になった。
この事態はシンガポール社会に、「見えていなかった部分」を可視化させた。高い生活水準を誇る都市の陰に、密集した環境で暮らす数十万人の存在があった。
週末のリトルインディアとムスタファ
Work Permit労働者が最も自由に動ける日曜日、リトルインディア周辺には数万人規模の出稼ぎ労働者が集まる。母国の食品や日用品を扱うムスタファセンター、路上での食事、電話ボックスへの長い行列——シンガポールの「もう一つの日常」がそこにある。
この光景を初めて見た在住者は、自分が日頃目にしているシンガポールと、この空間の間にある距離に気づくことがある。
「見える」と「見えない」の設計
シンガポールの都市設計は、エクスパットやシンガポール市民の居住エリアと、外国人労働者の居住エリアを意図せず(あるいは意図的に)分離してきた。これは差別的な制度設計というよりも、用途分離・効率化の結果として生まれたものだが、社会的な分断を生む要因にもなっている。
寮の環境改善は政府が課題として認識しており、コロナ後には施設の衛生基準引き上げや独立生活空間の確保が進められている(推定)。ただし、根本的な「密集して暮らす」という構造が変わるには時間がかかる。
シンガポールに長く住む人間として、この部分を視野に入れるかどうかで、この都市の理解の深さが変わる。