緑の都市シンガポール——ガーデン・バイ・ザ・ベイだけじゃない都市緑化政策
シンガポールの「City in a Garden」戦略の全体像。ガーデン・バイ・ザ・ベイから屋上緑化・垂直庭園まで、在住者の目から見える都市緑化の実態を解説。
シンガポールは、緑化を「コスト」ではなく「都市ブランドの資産」として扱ってきた稀な国だ。
開発途上国が経済成長を優先して緑を切り倒す中、シンガポールは1960年代から「ガーデンシティ」構想を掲げ、50年以上かけて緑を増やし続けてきた。現在の緑化率(緑地被覆率)は国土の約47%。東京の約33%と比較しても高水準を維持している。
ガーデン・バイ・ザ・ベイは「成果の展示」
ガーデン・バイ・ザ・ベイは観光地として有名だが、在住者から見ると「シンガポールの都市緑化の方向性を凝縮したショールーム」に見える。
スーパーツリー(高さ25〜50mの人工樹木構造物)は太陽光パネルと雨水収集機能を備え、温室(Flower Dome・Cloud Forest)は地熱や太陽光を活用して冷却コストを下げる設計になっている。観光だけでなく、都市工学の実証実験場でもある。
入場料はスーパーツリー展望デッキが無料(夜のライトショーも無料)、温室は有料(成人SGD 28〜32、約3,200〜3,700円)。在住者は年間パスを購入する人も多い。
「緑化義務」という制度設計
シンガポールが面白いのは、緑化を「努力目標」ではなく「法的義務」にした点だ。
都市再開発庁(URA)と国家公園局(NParks)は、建築開発に際して「Landscaping for Urban Spaces and High-Rises(LUSH)」という制度を運用している。開発者は失われた緑地面積を屋上・壁面・バルコニーで補填する義務があり、これを満たさないとビルが建てられない。
結果として、シンガポールのビル群を見ると、高層マンションのバルコニーに植物があり、商業ビルの外壁に垂直庭園があり、工場の屋上に芝生があるという光景が普通になった。
Bishan-Ang Mo Kio Parkの水路復元
あまり知られていないが、2012年に完成したBishan-Ang Mo Kio Parkの改修は都市河川設計の世界的なモデルケースとして評価されている。
もともとコンクリートの排水路だったカラン川を、自然な蛇行を持つ河川に復元した。川沿いに湿地植物を植え、魚・鳥・昆虫が戻ってきた。同時に洪水対応能力も向上させた——「自然に近づけること」と「防災機能」を両立した設計だ。
在住者にとってはランニングコースや週末の散歩コースとして親しまれているが、その背景にこういう設計思想がある。
緑化の「影」の部分
もちろん課題もある。緑化のコストは開発者に転嫁され、最終的には不動産価格や賃料に跳ね返る。シンガポールの家賃が高い要因の一つに、この種の環境規制コストが含まれている面もある。
また、緑化政策が「観光・外資誘致のためのブランディング」に偏りすぎているという批判も現地にはある。一般市民の公園アクセスが保障されているか、外周の高級コンドミニアムが緑を「独占」していないか——こういう問いに答え続けることが、次の50年の課題になる。
シンガポールの緑は確かに美しい。ただし、その美しさは「政策によってデザインされた美しさ」だということを、在住者は肌で知っている。