HDBを100万円でリノベする文化——シンガポール式「家を自分のものにする」方法
シンガポールのHDB(公団住宅)購入者のほとんどが、引き渡し後すぐに大規模リノベーションを行う。なぜ新築でも工事が必要なのか。費用相場と業者選びの実態を整理する。
この記事の日本円換算は、1SGD≒115円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨の金額を基準にしてください。
シンガポールでHDBを購入した人が最初にすることは、引っ越しではない。リノベーションの業者を探すことだ。
新築のHDBは「BTO(Built-To-Order)」と呼ばれる形で供給される。白い壁、剥き出しのコンクリート床、キッチンキャビネットなし——いわばスケルトン状態で引き渡される。ここから住める状態にするために、シンガポールの住民は平均SGD 30,000〜70,000(推定、345〜805万円)をリノベーションに投じると言われる。
なぜそこまでお金をかけるのか
日本の賃貸感覚で「住めればいい」という割り切りは、シンガポールのHDB購入者の間では少数派だ。
理由の一つは、HDBが単なる居住空間ではなく資産だという意識がある。将来の転売価格を意識して、キッチン・浴室・フローリングをグレードアップする判断をする家庭が多い。
もう一つの理由は、リノベーションが社会的な通過儀礼の意味を持っていることだ。「家を持つ」ということは、自分たちのスタイルで空間を作ることと同義として捉えられている。
いくらかかるか
費用は選ぶ素材や業者によって大きく幅がある。
- 最低限の仕上げ(フローリング・基本キッチン・浴室タイル):SGD 20,000〜30,000程度(推定)
- 標準的なリノベ(上記+木工造作・照明・エアコン設置):SGD 40,000〜60,000程度(推定)
- こだわり仕上げ(カスタム家具・高グレード素材):SGD 80,000以上になることも
この金額は、HDB住宅ローンの返済に加えて用意する必要がある。多くの家庭はCPF(中央積立基金)の資金とリノベーションローンを組み合わせて賄う。
業者選びの現実
シンガポールのリノベーション業者(ID = Interior Designer)は数百社が競合している。質の差が大きく、安い業者に発注してトラブルになるケースは後を絶たない。
よくあるトラブルは「工期の大幅遅延」「追加費用の発生」「完成品質の相違」だ。業者選定にはHDB公式の「Renovation Contractor Accreditation Scheme」を確認することや、レビュープラットフォームを使って施工例を確認することが重要とされる。
在住外国人への示唆
HDBを購入できない外国人にとっても、この文化を知っておく意味はある。コンドミニアムの賃貸でも、家主が独自にリノベーションを施した物件と元のままの物件では、賃料・品質に大きな差がある。
また、シンガポールの職種としてインテリアデザイン・リノベーション業は規模が大きい。リノベブームを背景に成長してきた業界を理解すると、シンガポールの住宅市場全体の動きが見えやすくなる。