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島を作り続ける国家。シンガポールの国土は建国以来約25%拡大した

シンガポールは60年間で国土を約580㎢から744㎢へと拡大した。砂を輸入して島を作り続けるこの国の戦略は、単なる土木工事ではなく国家存続の問いに答えようとする試みだ。

2026-04-08
シンガポール埋め立て土地都市開発移住

シンガポールが独立した1965年、この島の面積は約580平方キロメートルだった。東京23区の面積が約627㎢なので、それよりも一回り小さい。そして現在、シンガポールの国土は744㎢を超えている。60年間で、新宿区の面積(約18㎢)のおよそ9個分にあたる160㎢以上が、文字どおり海から生まれた。

なぜ海を埋めるのか

土地のない国が豊かになろうとすれば、土地を作るしかない。それがシンガポールの出した答えだ。

独立当初、この国には農地も資源もなかった。水道水さえマレーシアからパイプで引いていた。港湾と金融と人材だけで生きていくという選択は、同時に「使える土地を最大化する」という命題を政府に課した。

埋め立ては植民地時代から行われていたが、本格化したのは独立後だ。1960年代から70年代にかけて、イーストコーストやジュロン島の造成が進んだ。ジュロン島は特に興味深い案件で、もともと独立した小島が7つあった場所を全部つないで一つの工業用地に変えた。現在、ここにはシェルやExxonMobilをはじめとする石油化学企業が集積し、シンガポールのGDPの約5%を生み出している。

砂はどこから来るのか

島を作るには砂がいる。大量の砂が。

シンガポールはかつてインドネシアやマレーシアから砂を輸入していた。しかし両国は相次いで砂の輸出を禁止した。インドネシアは2007年、マレーシアは1997年以降段階的に制限を強化した。環境破壊と、島を売っているという国内世論への配慮からだ。

その後、シンガポールはカンボジアやベトナム、さらにはアフリカ諸国からも砂を調達するようになった。世界最大の砂輸入国という不名誉なレッテルは今も貼られたままだ。最近では「ポルダー方式」(堤防で囲んで内部を干上がらせる、オランダ由来の技術)を採用し、砂の使用量を減らしながら土地を作る方法に移行しつつある。テコン島の拡張がその代表例だ。

砂の争奪は外交問題に発展したこともある。2002年には、シンガポールの埋め立てによる環境影響をめぐりマレーシアとの間で国際司法裁判所への提訴騒ぎにまで発展した。土地を買うのではなく、作ることのコストはカネだけではない。

海を埋めると何が変わるか

埋め立て地がどう使われるかを見ると、シンガポールの国家戦略が透けて見える。

イーストコーストは市民の居住・レクリエーション空間になった。チャンギ空港の拡張(特にターミナル5計画)は埋め立て地なしには成立しない。マリーナベイの金融地区とその先にある「フォレスト・バイ・ザ・ベイ(ガーデンズ)」は、1990年代まで海だった場所に立っている。

国土の25%が「人工的に作られた土地」であるという事実は、シンガポールのアイデンティティにも影響する。先祖代々の土地という概念が薄く、国全体が「設計されたもの」という感覚がある。都市計画が国民の合意を比較的得やすいのも、そういう歴史的文脈があるからだという指摘もある。

2030年以降の計画と限界

シンガポール政府の長期計画「シンガポール2030」では、さらなる埋め立てによって国土を800㎢超にすることが視野に入っている。しかしここにきて、課題も浮かび上がっている。

一つは気候変動だ。海面上昇が続く中、埋め立て地そのものが水没リスクを抱えることになる。政府はすでに新規埋め立て地の地盤を海面より4メートル高く設定するという方針を打ち出しているが、費用は膨大だ。

もう一つは隣国との関係だ。砂の調達問題は前述のとおりで、海洋境界をめぐる交渉は今も続いている。

それでも、シンガポールは島を作り続けるだろう。土地は主権の証明であり、経済の基盤でもある。この国にとって埋め立ては「建設」ではなく「国家建設(nation building)」の言葉に近い意味を持っている。

シンガポールに住む日本人にとっては、引っ越しのたびに地図が微妙に変わっている可能性がある国だという認識を持っておくと、この都市国家の論理が少し違って見えてくる。

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