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マレー系保護区という土地制度——シンガポールに「売れない土地」がある理由

シンガポールには、マレー系住民のみが購入・賃貸できる「マレー系保護区」が法律で定められている。多民族平等を掲げる国家でなぜこのような制度が存在するのか。

2026-07-02
マレー系土地制度民族政策住宅シンガポール

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シンガポールには、誰でも買えない土地がある。

不動産が自由市場で動く国として知られるシンガポールで、特定の民族しか購入・賃貸できない区域が法律に基づいて存在する。「マレー系保護区(Malay Reservations)」と呼ばれるその制度は、植民地時代から続く歴史的な文脈を持ちながら、現代の多民族国家の中で静かに機能している。

植民地時代の遺産

この制度の起源は英国植民地時代に遡る。当時、土地の集積を防ぎマレー系住民の生活基盤を守る目的で、特定の土地をマレー系コミュニティ専用として指定する政策が導入された。

独立後のシンガポール政府はこの制度を廃止せず、継続することを選んだ。多民族政策の中で、少数派であるマレー系(人口比で約15%)への配慮として機能させるという判断だ。

現在の根拠法は「Malay Reservations Enactment」に基づく。対象地域はプンゴル、チョアチュカン、ブキティマなど複数のエリアに点在しており、HDB(公団住宅)の一部区画にもこの指定が及ぶ。

「誰が買えるか」の定義

「マレー系」の定義が行政的に定められており、この定義に合致する人物のみが保護区の不動産を購入または賃貸できる。具体的には、マレー語を話し、マレーの慣習に従い、イスラム教を信仰する人物とされる(法律上の文言は行政的に解釈される)。

つまり、シンガポール市民であっても、華人やインド系の人が保護区の物件を買うことはできない。外国人は当然対象外だ。

この制度の存在はシンガポールに長く住む外国人の間でも知られていないことが多い。不動産エージェントが物件紹介時に「これは保護区の対象です」と明示するケースもあるが、うっかり見落とすことも起きる。

現実の影響

実際のところ、保護区に指定されたエリアの物件数は限られており、不動産市場全体に対する影響は小さい。多くのマレー系住民はHDBや一般のコンドミニアムに居住しており、保護区の物件のみで生活しているわけではない。

ただし、この制度が「民族ごとに土地の権利が異なる」という事実を法的に固定している点は注目に値する。シンガポールは人種平等を憲法に明記しつつ、一方でこのような民族別制度を維持している。矛盾ではなく、複数の原則を同時に抱える設計として存在している。

GRCとの接点

マレー系保護区の存在は、選挙区制度の「GRC(グループ代表選挙区)」と並んで、シンガポールが少数民族の代表性を制度として確保しようとしてきた試みの一つだ。どちらも「市場原理に任せると消えるかもしれないもの」を制度で守る発想から来ている。

少数民族の文化・経済的基盤を守るために「特別扱い」をするのか、それとも全員に同じルールを適用するのか。シンガポールは前者を選んだケースの一つとして、この土地制度が今も機能し続けている。

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