シンガポールの国防費と小国の安全保障戦略
GDP比3%超の国防費を維持するシンガポール。なぜ小国がここまで軍事に投資するのか。その背景にある地政学的判断と「総力防衛」の思想を解説します。
この記事の日本円換算は、1SGD≒115円で計算しています(2026年4月時点)。
シンガポールの国防予算は毎年GDPの約3〜3.3%前後を占める。2024年度の国防予算は約203億SGD(約2.3兆円)。面積が東京23区ほどの都市国家が、これだけの額を軍事に投じている。この事実を知ると、多くの日本人は少し驚く。
「小さな赤点」の危機意識
シンガポール建国の父・リー・クアンユーは、地図上のシンガポールを「小さな赤点(little red dot)」と表現した。マレーシアとインドネシアという大国に挟まれ、独立当初(1965年)から安全保障は死活問題だった。
国際法上の保護を信じるより、自ら抑止力を持つ方が現実的だ——この判断が、建国以来の軍事投資の根底にある。
徴兵制(NS)と総力防衛
シンガポールでは男性市民・永住権保持者に国家奉仕(National Service: NS)が義務付けられている。期間は約2年間。在住する日本人の永住権(PR)保持者の息子もNSの対象になることがあり、子どもの進路に影響するケースもある。
NSを終えた後も予備役として定期的に訓練に呼び出される仕組みがあり、有事の際に社会全体で防衛に当たる「総力防衛(Total Defence)」の思想が制度に埋め込まれている。
何に使っているのか
シンガポール軍(SAF)は、規模こそ小さいが装備は最新鋭だ。F-15SGやF-16 C/D戦闘機、Apache攻撃ヘリ、アーチャー155mm自走砲など。兵器の多くはアメリカや欧州から調達しており、購入コストが高い。
訓練場の確保も課題で、シンガポール国内では大規模な演習ができないため、オーストラリア、タイ、フランス領ギアナなど海外での訓練を定期的に実施している。その費用も国防費の一部だ。
在住外国人への影響
日常生活でシンガポールの軍事色を感じる機会は多くない。ただ、8月9日の建国記念日(National Day)前後は軍事パレードやF-15のフライオーバーが行われ、国防への意識が可視化される。
また、コンドミニアムや住宅地の近くに軍の施設があるエリアも多く、週末に迷彩服を着た若者を電車で見かけることも普通の光景だ。
高い国防費は税収に影響し、社会保障や教育予算との優先順位の問題でもある。シンガポールが「どこにも頼れない小国」という自己認識を持ち続けている限り、この方針は当面変わらないだろう。