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シンガポール不動産の冷却措置(ABSD)——外国人が買うと60%の税がかかる国

シンガポールの不動産購入税(ABSD)の仕組みと外国人への影響を解説。60%の税率が課される背景、永住権・市民権取得後の変化、実際に外国人が買うべきかどうかの現実的な視点。

2026-04-21
不動産ABSD冷却措置外国人購入住宅

この記事の日本円換算は、1SGD≒115円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(SGD)の金額を基準にしてください。

シンガポールで不動産を買おうと思った瞬間、数字が目に飛び込んでくる。

「Additional Buyer's Stamp Duty(ABSD)——外国人:60%」

これは誤字ではない。物件価格の60%が、購入時にそのまま税金としてかかる。200万SGD(約2億3,000万円)の物件なら、税金だけで120万SGD(約1億3,800万円)。物件価格と合わせると320万SGD(約3億6,800万円)の支出になる。

ABSDとは何か——「買わせたくない」というメッセージ

ABSD(Additional Buyer's Stamp Duty)は、シンガポール政府が2011年に導入した不動産購入時の追加税。背景にあるのは、国土わずか733㎢の都市国家における住宅価格の過熱だ。

政府の方針は明確。「シンガポールの住宅は、シンガポール人のために確保する」。

2023年4月の改定で、外国人のABSDは従来の30%から60%に倍増した。これは単なる数字の変更ではなく、「外国人が不動産を投資目的で買うことは想定していない」という政策意図の表れだ。

身分別のABSD一覧

購入者の属性1件目2件目3件目以降
シンガポール市民(単独購入)0%20%30%
永住権保持者(PR、単独購入)5%30%35%
外国人60%60%60%
法人65%65%65%

PRになると一気に下がる。最初の1件なら5%で済む。

外国人が実際に買うケース

それでも購入を検討する外国人がいる。理由は主に3つ。

長期定住の意思表示として。シンガポールに10〜15年以上住み続けることが確実で、家族のために資産を持ちたいケース。60%払っても長期保有で元が取れると判断するなら成立する論理だが、数字的にはかなり厳しい。

PR・市民権取得前の「仮取得」として。PR申請中に物件の供給タイミングが重なり、まず外国人として購入してしまうケース。PR取得後に一部ABSDが還付される制度があるが、手続きは複雑だ。

富裕層の資産分散として。超富裕層にとって60%の税金は「シンガポールという安全資産を持つコスト」として許容範囲に入る。実際に香港や中国の富裕層がこの判断をした事例は多い。

賃貸のほうが合理的な理由

EPや就労ビザで生活する日本人の場合、購入より賃貸を選ぶほうが合理的なケースがほとんどだ。

賃貸なら流動性を維持できる。転職・帰国・他国移動の際に売却するコストとリスクを負わなくていい。シンガポールの賃貸市場は供給が一定あり、コンドミニアムの2LDKなら月SGD 4,000〜7,000(約46万〜80万5,000円)程度の相場がある。

PRを取得してから改めて購入を検討するというプロセスが、現実的な順序だろう。

冷却措置の実際の効果

政府がここまで厳しくした背景には、2022〜2023年の住宅価格急騰がある。外国人マネーの流入でコンドミニアム価格が過熱し、市民・PRが「自分の国なのに買えない」という状況が生まれた。60%への引き上げ後、外国人購入は大幅に減少した。政策としては機能している。

不動産の話に限らず、シンガポールは「市民のための国」を徹底する。その論理を理解すると、この国の多くの制度が腑に落ちてくる。

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