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HDB転売市場の価格が100万SGDを超えた——公共住宅なのになぜ

シンガポールの公共住宅HDBの転売価格が100万SGD超えの事例が相次いでいる。公共住宅でありながら資産価値を持つ設計の仕組みと矛盾を解説します。

2026-04-12
HDB公共住宅不動産住宅政策

この記事の日本円換算は、1SGD≒115円で計算しています(2026年4月時点)。

シンガポールの公共住宅(HDB)の転売価格が、100万SGD(約1億1,500万円)を超える事例が2022年以降に急増している。2024年には100万SGD超えの取引が年間で1,000件を超えた。「公共住宅」という名称からは想像しにくい数字だ。

HDBとは何か

HDB(Housing Development Board)はシンガポール政府が建設・管理する公共住宅で、シンガポール人の約80%が居住している。日本の公営住宅とは異なり、購入型が基本で、99年の土地借地権付き物件として個人が所有できる。

新築の場合はHDB直販(BTO:Built-To-Order)で購入する。価格はエリアや広さによって異なるが、市中心部から離れたエリアの3-4部屋タイプで30〜50万SGD(約3,450万〜5,750万円)程度。

5年以上居住後は「転売市場」(Resale Market)での売却が可能になる。ここで価格が市場原理に任されるため、人気エリアや高層階の物件が高騰する。

なぜ100万SGDを超えるのか

価格を押し上げている要因はいくつかある。

立地とビュー。 中心部に近いエリア(タンピネス、クイーンズタウン、ビシャン等)や、MRT駅直結、上層階で眺望が開けた物件は投機的な人気がある。

残存リース期間。 99年リースのため、建設年が古い物件は残存期間が短い。2020年代後半から、50年以下の物件に対する住宅ローン審査が厳格化されたことで、比較的新しい物件への需要が集中している。

ABSD(追加印紙税)の影響。 コンドミニアム購入には高額のABSDが課される(シンガポール人の2件目で20%)ため、HDB転売市場に需要が流れている側面もある。

政府の矛盾する意図

政府は「すべてのシンガポール人に手の届く住まいを」という理念を掲げつつ、HDBが資産として値上がりすることを半ば容認してきた歴史がある。国民の多くがHDBを老後の資産として位置づけており、「HDBが値下がりした=政府の失政」という政治的圧力がある。

2023年にはHDB新築価格を引き下げ、転売市場への規制強化も実施されたが、効果は限定的だ。CPF(中央積立基金)でHDBを購入し、売却益を次の物件購入や老後資金に充てる——このサイクルが国民の資産形成に組み込まれているため、政府も根本的な価格抑制に踏み切れない。

外国人には関係ない話か

実はある。シンガポール永住権(PR)を取得すると、HDB転売市場での購入が可能になる。駐在員が長期滞在を予定している場合、コンドミニアムよりも広い面積をHDBで確保するという選択肢もある。ただし転売には制限があり、最低5年の居住義務がある。短期滞在者にはほぼ無縁だが、PR取得を検討しているなら知っておく価値のある制度だ。

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