シンガポールが海を埋めてきた歴史——国土の拡大と「砂の政治学」
シンガポールの国土面積は独立以来約25%拡大した。埋め立てによる国土造成は今も続いており、その砂をどこから調達するかが東南アジアの外交問題になっている。
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マリーナベイは埋め立て地の上に建っている。
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイも、チャンギ空港の滑走路の一部も、セントーサ島と本島をつなぐ区域も——近代シンガポールの主要な土地の多くは、かつて海だった場所だ。
シンガポールは独立以来、海を埋めて国土を広げ続けてきた。1965年の独立時に約580㎢だった国土面積は、現在約730㎢に達しているとされる(推定・年度により異なる)。東京都区部(約622㎢)より広い国土の約2割が、人工的に作られた陸地だ。
埋め立てに必要な「砂」
国土拡大に使われる最大の資材は砂だ。大量の砂を海中に投入して陸地を作る工法は、シンガポールが主に採用してきたものだ。
問題は、この砂をどこから調達するかだ。シンガポール自体には砂がほとんどなく、長年マレーシア・インドネシア・ベトナム・カンボジアなどから輸入してきた。しかしこれらの国は、自国の海底地形・生態系への影響を理由に砂の輸出を次々と禁止してきた。
インドネシアは2007年に禁輸。マレーシアも制限を強化。シンガポールは代替調達先の確保とリサイクル建材の活用に転換を迫られている。
埋め立て地に建つ都市の意味
マリーナベイ・サンズが立つ土地は1990年代から2000年代にかけて埋め立てられた比較的新しい陸地だ。チャンギ空港の整備・拡張も継続的な埋め立てを伴っており、ターミナル5の建設エリアも海上に作られる計画だ。
在住者からすると、地図で見る海岸線が少しずつ変化していることに気づく。特にウェストコーストやジュロン地区では、埋め立て工事の進行を岸から目視できる場所がある。
「場所の記憶」が失われる速度
埋め立ては国土を増やす一方で、海に面した地形・生態系・漁場を変容させる。プラネット・バイオダイバーシティの研究者たちが指摘するように、シンガポール周辺の珊瑚礁や海藻床の多くが、過去数十年の埋め立てによって縮小している。
高速で「経済成長のための土地」を作り続けてきた都市が、生態系保全の問題と向き合い始めている段階にある。
シンガポールが自らを「庭の都市」と称するとき、その庭の下には埋め立てられた海があるという事実は、この国の環境観を複雑にする一つの要素だ。