定年63歳・再雇用68歳——シンガポールのシニア労働政策の現実
シンガポールは少子高齢化への対応として定年延長と高齢者の就労継続を進めています。法制度の内容と、実際に働き続けるシニアの実態を解説します。
この記事の日本円換算は、1SGD≒115円で計算しています(2026年4月時点)。
シンガポールでホーカーセンターに行くと、70代と思しき店主が蒸し暑い厨房で麺を茹でている光景は珍しくない。「老後はゆっくり」という選択が取りにくい経済構造がある。
法定定年と再雇用義務
シンガポールの雇用法(Employment Act)では、法定定年年齢と再雇用義務年齢が段階的に引き上げられてきた。
| 時期 | 法定定年 | 再雇用義務 |
|---|---|---|
| 2022年以前 | 62歳 | 67歳まで |
| 2022年7月〜 | 63歳 | 68歳まで |
| 2030年(予定) | 65歳 | 70歳まで |
「再雇用義務」は、雇用主が希望する従業員を少なくとも再雇用義務年齢まで雇い続けなければならないという制度だ。同一条件での継続とは限らず、待遇変更(賃金低下・職種変更)を伴うことが多い。
CPFとの連動
定年が重要な理由の一つはCPF(中央積立基金)との関係だ。CPFは日本の社会保険に相当する制度で、現役時代の積み立てが老後の生活費・医療費・住宅費に使われる。
CPFのSpecial Account(老後積立)からの引き出しは55歳から可能だが、全額受け取りが始まるのは段階的な仕組みになっており、65歳以降に毎月受け取れる「CPF LIFE」の受給額は積み立て規模に依存する。多くのシンガポール人のCPF積立額では月1,000〜2,000SGD程度の年金収入しか得られないため、就労継続が経済的に不可欠になる。
ホーカーの高齢化問題
シンガポールで特に顕著なのが、ホーカーセンター店主の高齢化だ。若い世代が継がない業態のため、70代・80代の店主が第一線で働いている。
この問題は政府も認識しており、若い世代がホーカー業を始めやすくするための支援プログラム(補助金・メンタリング)を設けているが、早朝から長時間立ち仕事という業態の魅力が増えているわけではない。
シニア雇用促進策
政府はSenior Employment Credit(SEC)という制度で、高齢従業員を雇用・継続雇用する企業に対し、給与の一部を補助金として支給している。これにより企業がシニアを採用するコスト負担を下げ、就労継続を支援する設計だ。
また、高齢者向けのリスキリング支援(SkillsFuture)も充実しており、デジタルスキルや新しい職種への転換を促す補助が60歳以上には追加措置で手厚くなっている。
在住日本人への関連性
シンガポールに長期在住・永住する日本人にとっては、シンガポールの老後制度を理解することが重要になる。CPFへの加入はシンガポール市民・PRに限られるため、外国人のまま老後を迎える場合は個人での資産形成が全て自己責任になる。長期移住を考えるなら、PR取得とCPF積立の選択肢を早期に検討する価値がある。